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【野間陽子のレースレポート vol.8】「アンドラ・ウルトラトレイル2017/ユーフォリア・デル・シム」

2017.10.17

2017年7月、今年のメインレース第1戦として、「アンドラ・ウルトラトレイル・ヴァルノード/Andorra Ultra Trail Vallnord (以下AUTV)」のレースカテゴリーのひとつ、「ユーフォリア・デル・シム/Eufòria dels cims」(距離233㎞ / 累積標高D+2万m、以下ユーフォリア)に出場しました。

 


今大会のアンバサダーで記念撮影。国籍はさまざまだが、みんなAUTVを愛するアスリートだ

 

■今年から新設されたレースカテゴリー「ユーフォリア・デル・シム」

AUTVには6つのレースカテゴリーがあり、ユーフォリアはAUTVが開催9回目を迎えた今年2017年に初めて設けられたカテゴリーです。
AUTVにおけるメインレースで、昨年までいちばん距離の長いカテゴリーだった「ロンダ・デル・シム / Ronda dels Cims」(距離170㎞ / 累積標高D+1万3500m、以下ロンダ)は、私が2013年から今日まで走った8本の100マイルレースの中で最もタフなトレイルレースでしたが、そのロンダを2014年に完走した後、とても素敵なレースなのでいつかまた走りたいと思う気持ちと、あのつらさは一度だけの経験でいいのではと思う気持ちを併せ持ってきました。そんなAUTVへの思いを持ち続けていた折、第9回大会にユーフォリアという新しいカテゴリーができるという情報を、オーガナイザーが知られてくれました。

 

■AUTV2017 アンバサダーへの招待状

新しいカテゴリーに興味がありながらも、さらに距離が延びて累積標高の増えたあの厳しいAUTVのコースでレースすることを想像し、エントリーを躊躇していた12月上旬。そんな私の気持ちを知るかのようなメールが届きました。
「Yoko、貴女をAUTV2017のアンバサダーとして招待したい」
オーガナイザーから、夢のような心躍るオファーでした。

 

■チームで臨む山岳アドベンチャーレース「ユーフォリア・デル・シム」

ユーフォリアは、2人1チームでコースマーキングのないルートをGPSと地図を持って進む山岳アドベンチャーレースです。距離233㎞、累積獲得標高2万m、制限時間110時間(4日間と14時間)の壮大な旅です。標高2900mを超える5つのピーク、2500~2900mの32のピークやコルがあり、平均標高は2200m。
コースの途中にあるライフベースは全部で4カ所。約50㎞ごとに設置され、スタート前に預けた自分のデポジット・バッグを受け取ることができます。荷物を入れ替えた後、デポジット・バッグは次のライフベースへと搬送してもらえます。ライフベースには、温かい食事、飲み物、シャワー設備や仮眠設備があります。コース途中にはいくつか山小屋があり、営業時間中であれば食事をすることができますが、必ずしも営業時間中に通過できるとは限らないため、基本的に1日分の食料と水は背負って走ります。
 

■プロローグ

2014年、ロンダに参加した時の記憶は、今も色鮮やかなまま残っています。距離170㎞、累積獲得標高1万3500m、2400m以上のピークを16回も踏むコースは本当にタフでした。 足元の石が崩れ落ちてなかなか登れないザレた登り、眼下の湖まで滑り落ちないよう慎重にトラバースした雪渓、冷たい雪解け水を湛えた草原を濡れたシューズで雨のなか凍えながら夜通し進んだトレイル。どの瞬間を思い出しても、厳しいコースを必死に進んだ記憶がよみがえります。
そのロンダより、距離が63㎞延びて233㎞に、累積獲得標高が6500m増えて2万mに、16回踏んだ2400m以上のピークが32回に、64時間の制限時間が110時間になったレースがユーフォリアなのだろうと想像していました。距離が延びて山が増えたけれど、それはロンダのコースが延びた感じなのだろうと。
ところがレースが始まると、そんな覚悟では甘かったことを思い知ります。


チームメイトはトレイルランナーの石井さん。OMMやロゲイニングなど、
チームで参加する大会でペアを組むことが多い、気心の知れたバディです

 

■スタート。道を探して進む旅が始まった

7月5日水曜日の朝7時、リズミカルな音楽、花火、歓声の中、小さな町オルディノをスタートしました。レースは日曜日の21時まで続きます。制限時間は110時間(4日と14時間)なので、233㎞を制限時間内に完走するためには、1日平均距離51㎞、累積獲得標高4500mは進まないとフィニッシュできません。東京から練習に行きやすい丹沢山域を基準に考えると、距離50㎞、累積標高4500mのコースはハイキングペースで進むとおよそ16時間かかるので、レースペースで進むユーフォリア・デル・シムは、同程度の時間がかかると想定。一日合計6時間の休憩を取り、50㎞ごとにおよそ22時間かけ、それを5日連続で繰り返すイメージで、ざっとタイムチャートを作っていました。


GPSトラッカーとCPパンチ用リストバンドを渡され、スタートの号砲を待つ

 

■レース1日目、1つ目のライフベースまでの50㎞

1つ目のライフベースまでのログは、距離50㎞、累積標高D+3641m、D-2721m。日付が変わって間もない頃にはライフベースに着くことを想定しているので、想定から遅れないよう休憩も手短にすませながら進みます。GPSに表示されるルートを確認しながら前へ前へと脚を運ぶのですが、険しく長い岩場、立ったままでは危険で、腰を低くしないと進めない両サイドが切れた長いナイフリッジ、急過ぎて踏ん張ることもできないザレた長い下りのトラバース、伸びた芝生にしがみつきながら直登する長い激登りと、テクニカル過ぎて驚くほど前へ進めないパートの連続なのです。
草に覆われた崖のトラバースでは滑落事故が相次ぎ、私たちが通過した前後でヘリコプター4機が選手をレスキューする事態。とにかくどこを取っても凄いコースでした。


3点確保しながら、浮石だらけの長い稜線を慎重に進む

 


カニ歩きとポールで踏ん張っても足元が崩れていくザレた激下りをトラバース

 

夜間のルートファインディングも困難でした。明瞭なトレイルを見つけて進むのは、日中の明るい時間帯なら簡単ですが、暗くなるとヘッドライトの光は周囲5m程度しか届きません。反射板のついたコースマークなるものはないのでGPSを頼りに進むのですが、GPSの表示するルートには5~10m程度の誤差があり、そばにあるはずのトレイルを見つけられずにオフトレイルを進むことがしばしばありました。遠く行く先には別のチームが照らすヘッドライトの明かりが見えながらも、そこへ向かう足元のルートがわからないのです。

当初は、1つ目のライフベースへはスタートから18時間後の午前1時には到着し、4時間休憩して、2日目は午前5時にスタートするという想定でしたが、その想定から大幅に遅れること5時間、夜が明けてすっかり朝を迎えた午前6時前にようやく1つ目のライフベースに到着しました。このライフベースの関門時間は午前10時。ゆっくり休憩する余裕はありませんが、2日目の明るい間に巻き返し、次のライフベースでは休憩時間を確保できるよう頑張ろうと、フィニッシュへの希望にあふれていました。

 

■レース2日目、厳しいコースが続く

2時間休憩して、2日目は8:00スタート。2日目も容赦なく厳しいコースが続きます。スタートから14㎞地点でアンドラ最高峰コマペドローサを通過。ここは「ロンダ・デル・シム」のコースと重なる部分があり、コースマークのありがたさにしばし感激するのですが、明瞭なトレイルに沿って下っていくロンダのコースマークを横目で見ながら、さらに厳しいガレ場へGPSに誘導されて進みました。

 


アンドラ最高峰コマペドローサからは、見渡す限りピレネー山脈のパノラマビューが広がる


2日目の夜もルートファインディングには苦戦しました。途中からほぼ同じペースで進んでいた日本人チームと一緒に、4人の五感と2台のGPSで共に進みましたが、夜のオフトレイルでのルートファインディングは困難を極めました。
2日目が始まってから、20時間かけて30㎞。2つ目のライフベースまでの残り16㎞を5時間で行かなければ、制限時間に間に合わない。それが不可能であると認識したタイミングで、スキー場を横切る山道で停車して待っていた大会側の車に収容してもらい、私たちのレースは終了しました。前進する気持ちであふれていた80㎞でしたが、実力不足によりレース終了。スタートから45時間後の80㎞地点で突然訪れたタイムオーバーという形での閉幕は、悔しさを感じるには程遠い場所に取り残された自分たちに、ただ驚くばかりでした。

 

■山岳アドベンチャーレースに魅せられて

初めて臨んだ、GPSと地図を持って進むユーフォリア・デル・シム。コースマークのない山岳アドベンチャーレースは冒険のような旅でした。100マイル以上のロングレースは旅のようで、旅はそれだけでワクワクするものですが、それに冒険というエッセンスが加わった山岳アドベンチャーレースは、スリルのある旅をしているかのようでした。
今回のユーフォリアはフィニッシュできませんでしたが、私のなかの山岳アドベンチャーレースは始まったばかり。絶対的な走力、オフトレイルを進むスピード、GPS機器の習熟など、いろいろな実力を積み上げて、また挑戦していきたいと思っています。

 

コース上で数カ所通過した雪渓。なぜか嬉しくなる

 


ガレた岩場をひたすら登って目指すコマペドローサ山頂

 

Andorra Ultra Trail Vallnord 大会公式ウェブサイト


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連載 野間陽子のレースレポート

 

 

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