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「日本山岳耐久レース 長谷川恒男CUP」レースレポート

2014.10.24

トレイルランニング人気の高まりとともに、国内各地にて大会数が急増している中、国内最高峰のレースとして広く認知されてきた日本山岳耐久レース(全長71.5 km)。第22回大会が10月12~13日、東京・奥多摩の山域を舞台に開催された。
もともとは、ヒマラヤ登頂を目指す若き登山家の登竜門として位置づけられており、東京都山岳連盟に所属していた世界的クライマーの故・長谷川恒男氏の功績を讃え、大会の象徴として「長谷川恒男カップ」が設けられていることから、通称「ハセツネ」と称されている。


今大会は、台風19号の接近により開催が危ぶまれたが、大会期間中の関東直撃は免れ、無事に決行。スタート時の天候は曇り、気温は15℃前後(小河内)と、絶好のレースコンディションとなった。
注目選手は、まず海外招待選手のマックス・キング(アメリカ)。今年のアイスエイジトレイル50マイルで優勝するなど50 km~50マイルのレースで強さを誇り、フルマラソン2時間14分というベストタイムを持つスピードランナーだ。日本勢では、昨年初出場ながら7時間19分13秒の大会新記録で優勝を果たした東徹、同じく昨年初出場で2位に入った大杉哲也、同3位の奥山聡、そして同じく昨年初出場でトレイルラン歴は浅いながら序盤からトップ争いに加わり6位に入った大学生の上田瑠偉、さらには奥宮俊祐、山田琢也、小川壮太、菊嶋啓、小林慶太、大瀬和文ら実力者が多数参戦し、豪華な顔ぶれとなった。

▲左から、上田瑠偉、大塚浩司、海外招待選手のエイミー・スプロストン、マックス・キング、奥宮俊祐、山田琢也

 

▲スタートラインにトップ選手が顔を並べる

 

13時、あきる野市の五日市中学校を2264名の選手がスタート。スピードランナーが増加し、年々高速化に拍車がかかるなか、今年も序盤からハイペースで進む。約15㎞地点の醍醐丸では、上田、東がリード。マックス・キング、奥山が続く。第一関門の浅間峠(22.66㎞地点)をトップで姿を見せたのは上田。昨年大会新記録を出した東の通過(2時間13分38秒)に迫る2時間13分58秒で通過。大声援に笑顔でこたえ、余裕の表情。すぐ後に東、奥山が続き、1分半ほど遅れキング、さらに小川、奥宮、21歳の新鋭・秋元祐介と続く。ここで山田が膝痛のためリタイア。胃腸の不調に見舞われたという昨年2位の大杉は35位で通過、一度立ち止まるが、再び走り出す。

浅間峠を過ぎてからも、上田、東のトップ争いは変わらず。両者とも何度も転倒したといい、転倒のたびに先頭が入れかわる抜きつ抜かれつの展開。その背中を奥山が追う。西原峠を越えたあたりで、東が少し遅れ、上田が単独首位に立つ。コース中の最高点・三頭山(標高1528m、36.3 km地点)からの下りで、奥山が東をかわし、2位に浮上する。
第二関門の月夜見(42.1 km地点)、上田のタイムは大会記録を2分上回る4時間18分57秒。4分ほど遅れて奥山、さらに8分後に東、その後にキング、奥宮、秋元、小川と続く。

▲西原峠付近まで上田瑠偉と首位争いを続けた東徹。右は差が開いた後の第二関門にて


独走態勢を築いた上田は、第三関門の御岳(58.0 km地点)では2位以下に17分以上の差をつける。その後も快調なペースで飛ばし、昨年東が叩き出した7時間19分13秒の大会記録を一気に18分短縮する、7時間1分13秒という驚異的なタイムでフィニッシュ。ゴール地点は集まった観客たちのどよめきと歓声、拍手に包まれた。
「前半は、東さんと先頭を交替しながら良い感じでペースを作れた。月夜見以降は霧が濃く、下りでスピードが出せなかった。その分、登りをがんばったのが、この結果につながったかなと。(トップに立ってからは)後ろとの差がわからず、いつ来るかいつ来るかと思いながら、ラスト10 kmでまだ余裕があったので思い切りかっとばしました」。
ゴール直後も上田は疲れた表情を見せず、爽やかな笑顔で振り返った。

▲7時間1分13秒という驚異的タイムで優勝を飾った上田

 

2位は、昨年3位の奥山。タイムは7時間22秒02秒だった。今年は脚のケガが続き、不調のシーズンだったという。「本格的に練習を始めたのは7月半ば。久しぶりに良いレースができた。昨年の自分に勝てて嬉しい」(※昨年のタイムは7時間36分21秒)と笑顔で語った。第二関門の月夜見以降、ハイドレーションの故障で水分補給に手間取るアクシデントもあったが、レース1週間前からのウォーターローディングで体内に水分を十分蓄えていたといい、「あまり水を摂らなくても大丈夫だった」。さらに「来年も絶対に出たい。やるからには優勝したい。今年の優勝タイムを越えたいですね」と早くも1年後に向けて闘志を燃やした。

▲2位でゴールした奥山

 

3位に入ったのは、今回が9回目の出場となった奥宮。上位の常連だが、7時間28分34秒は自己最高記録。「今年は計画的にトレーニングができたことが良かった」と笑顔を見せた。ハセツネでは何度も優勝争いを演じ、今夏にはスイスのアイガーウルトラトレイルにともに出場、その後マッターホルンで遭難した相馬剛の2011年の優勝タイム(7時間38分17秒)を切りたかったといい、ゴール後は「相馬さん、やったぞ!」と拳を天に突き上げた。

▲相馬剛への思いを胸に自己最高記録を打ち立てた奥宮

 

昨年覇者の東は4位でゴール。何度も転倒したといい、ランニングパンツは大きく破れていた。「さすが、ハセツネ。簡単にはいかないですね」と苦笑。「第一関門までは予定どおりだったが、去年よりも余裕がなかった。故障気味だったこともあり、三頭山の登りはヘロヘロだった。応援のおかげで何とかゴールまで来られました」。

8月の志賀高原エクストリームトライアングル(63km)で優勝、9月の上州武尊スカイビューウルトラトレイル(120 km)で2位に入っている小川が、連戦の疲れを見せない走りで5位に食い込んだ。6位に入ったのは21歳の秋元。トレイルの経験はまだ多くないが、今年の北丹沢2位、志賀高原エクストリームトライアングル3位など、実力の高さを見せている今後が楽しみな若手選手だ。
7位の小林慶太、8位のマックス・キング、9位の須賀暁までが7時間台、また上位18人が8時間10分以内のタイムというハイレベルなレースとなった。

▲マックス・キングは8位

 

女子は、昨年優勝の大石由美子がケガのため欠場。昨年3位のエイミー・スプロストン(アメリカ)が9時間31分18秒で初優勝を果たした。初参加の昨年は、途中眠気に襲われてペースが落ちてしまったというが、今年は序盤からトップに立つと終始安定した走りで、昨年の自身のタイムを13分更新した。

▲女子優勝は、エイミー・スプロストン

 

日本人トップの2位に入ったのは福田由香理。タイムは9時間35分50秒。今シーズンは、6月のスリーピークス八ヶ岳(38 km)で2位、8月の志賀高原エクストリームトライアングルで優勝するなど力をつけており、序盤からエイミーに続く2位につけた。ゴール後のインタビューでは、「10時間切りを目標にしていた。大岳以降、しっかり走りたいと思っていた」と笑顔で話した。今後は、来年1月のHURT100などの海外レースにも出場予定で、UTMFなど100マイルのレースでも上位を目指したいという。
3位はハセツネには4回目の出場の江田良子。今回は練習が積めず、体調も万全ではなかったというが、声援を力に変えながら、10時間を切る9時間49分29秒のタイムを出した。
4位は大庭知子、5位は今年のSTY2位の吉田広美、6位は鴨井夕子が入った。

▲表彰式風景。男子(写真上)は、左から4位の東、2位の奥山、優勝の上田、3位の奥宮、5位の小川、6位の秋元。女子(写真下)は、左から4位の大庭、2位の福田、優勝のエイミー・スプロストン、3位の江田、5位の吉田。

 

【第22回 日本山岳耐久レース DATA】

●参加者数 : エントリー総数2590人(過去最多)、出走者数2264人、完走者1922人(完走率84.9%)。

●リザルト(MtSN) : 男子 / 女子

 

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《COLUMN》「この1年はハセツネにかけてきた」~上偉の新記録樹立ストーリー

7時間1分13秒――。21歳の上田瑠偉が驚異の新記録を叩き出した。
カメラマンに促され、電光掲示板の横でフラッシュを浴びると「7時間切りまで惜しかったですね」と、笑顔で言った。
高校駅伝の名門・佐久長聖高校出身。現在は早稲田大学の陸上競技同好会に所属しながら、トレイルランに取り組んでいる。初出場だった昨年は、トレイルランニングレース2戦目だった。ヘッドライトをつけての夜間走行も初めての経験だったが、果敢にトップ争いに加わり、7時間45分27秒で6位。トレイルへの適性の高さを見せつけた。
「昨年はラスト勝負で近藤(敬仁)さんに1秒差で負けたのが本当に悔しかった。大会後には、優勝した東さんがいろいろな雑誌に出ているのを見て、やっぱりハセツネで勝つことはほかのレースに勝つこととは全然違うと実感して、この1年はこの試合にかけてきた、というのはあります」
今大会の数日前には自転車で転倒し、膝を強打するアクシデントもあったが、数日間走れないことが逆に疲労回復につながる、とプラスに捉えた。実際、レース中は終始余裕があるほどコンディションが良かったという。
「ラスト10 kmの時点で余裕が持てるように、と思っていたけど、そこまでほとんど疲れを感じなかった」
今夏にはOSJおんたけウルトラトレイルで、初の100マイルに挑戦。途中リタイアという結果だったが、「110数kmまで走ったことで、トレイルの距離に対する耐性がつけられたと思う」。今大会に向け、もう1つ、上田にとって大きなポイントとなったレースがあった。8月の志賀高原エクストリームトライアングルだ。距離63 km、累積標高4700mのタフなコースで、上田は小川壮太に続く2位に入った。「志賀のレースが終わって1~2週間後、ハセツネの試走に来たときに、走りやすくて走りやすくて(笑)。ハセツネってこんなにラクなコースだったかなって(笑)。あの厳しいコンディションの中で走ったことで、ハセツネは環境が恵まれていると感じて、楽しく走れそうなイメージを持つことができました」。
7時間切りまであと一歩という新記録の樹立には、上位の常連選手たちも驚きを見せた。上田自身、「今回、力のある選手がたくさん出ていたので、その人たちに勝てればコースレコードはついてくるかなと思っていたけど、6時間台目前というタイムまでは予想していなかった」と言う。だが、本人は浮かれることなく、冷静だ。
「自分もまた1年間、トレーニングを積んで、力をつけていきたい。レースの日のコンディションにもよりますし、来年も勝てるとは限らない。また来年、挑戦者の気持ちで臨みたいと思います」
来年は、スカイランニングのレースにも挑戦したいと上田は言う。21歳の新王者のさらなる飛躍が楽しみだ。

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(松田珠子=文、藤巻翔=写真)

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