MtSN

Vol.1 TJARとは――。  取材・文=松田珠子 写真=杉村 航、藤巻 翔・小関信平・宮上晃一・佐藤籤岳
 
 
息を飲むような雄大な眺め、漆黒の闇に浮かぶ仲間の灯、
烈風に晒され追いつめられる自分、悲鳴をあげる身体、
絶望的な距離感、何度も折れそうになる自分の心、
目指すのはあの雲の彼方。
日本海/富山湾から太平洋/駿河湾までその距離およそ415Km。
北アルプスから中央アルプス、そして南アルプスを、
自身の足のみで8日間以内に踏破する
Trans Japan Alps Race
日本の大きさを感じ、アルプスの高さを感じ、自分の可能性を感じよう。
(公式HPより)
 


中央アルプスの稜線を行く選手(写真=藤巻 翔)
 
 
 参加したある選手は「これほどおもしろいレースはない」と語り、またある選手は「人生が凝縮されたようなレース」と表現した。

 「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」――。標高ゼロの日本海・富山湾から、3000m級の山々が連なる北アルプス・中央アルプス・南アルプスを縦断し、太平洋・駿河湾へ至る総距離約415kmを、自身の足のみで8日間以内に踏破する、2年に一度の壮大かつ過酷な山岳アドベンチャーレースだ。一昨年の前回大会がNHKのテレビ番組で放映されたことで、TJARは多くの人に知られる存在となった。
 

スタート直前、出場選手全員で記念写真(写真=杉村 航/MtSN)
 

かつてないほど多くのギャラリーの中でスタート(写真=杉村 航/MtSN)
 
 
 このレースは完全に自己責任の下に行なわれる。最も重視されるのは選手自身の安全管理だ。主催者側からの命題は「誰にも迷惑をかけないこと」

 選手たちはコ-ス上の指定されたチェックポイントを、走り+歩きのみで忠実に繋いでいく。エイドステーションは設けられず、レース中の補給は携行するか、途中の山小屋や売店で調達する。事前に預けた食料や装備の受け取り(デポジット)は、コース中盤の市野瀬(長野県伊那市)の一カ所だけ。またレース中の宿泊はテントやツエルトを使った露営のみで、途中の山小屋などでの宿泊や仮眠は禁止されている。

 8日間以内でのゴールをめざし、選手たちは睡眠時間を削り、栄養補給や休息のタイミングを考え、体のケアをしながら、長時間動き続ける。悪天候となっても主催者がレースを中止することはない。進むのか留まるのかは選手自身が判断する。

 壮大で過酷ゆえ、レースの規模を大きくすることはできない。出場できるのは、前回優勝者と選手マーシャルを含む30名。走力・体力はもちろん、3000m級の山中で長時間活動するための知識や経験が求められる。

 参加資格は、まず「70km以上のトレイルランニングレースを完走していること」「標高2000m以上の場所において10泊以上の露営経験があること」の2つ。さらに11項目からなる参加要件に基づいた書類審査、トレイルランや地図読み、夜間のビバークなどの実技と筆記試験による選考会、さらに今大会では抽選により、出場選手が決定した(年齢は32~52歳。うち女性3名)。

 8月10日深夜0時、富山県魚津市の早月川河口――。厳しい選考をくぐり抜け、TJAR2014出場の権利を得た30名の精鋭が、遥か遠くの太平洋をめざしスタートを切った。

 
太平洋のゴールには、辿り着いた者どうでなければ分かち合えない何かがあるらしい(写真=佐藤籤岳)

 

※当連載では、今後、過去大会の振り返り、今大会の総括、TJARの創始者である岩瀬幹生氏をはじめとする運営メンバーの大会への思い、そしてTJAR2014に挑んだ30名の勇者たちを紹介していく予定です。どうぞお楽しみに!