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【連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート第3話 ~総距離170km、累積標高差1万mに及ぶ、美しくも過酷な旅UTMB

2016.11.09

 UTMB 2016で女子8位に入賞し、日本人女性選手として初めてUTMBの表彰台に登った丹羽 薫さんによるレースポート。第3話では、80km地点~140km地点までを冷静に状況判断をしながら進む丹羽さんのレース模様をお伝えします。夜を越え、眠気や疲れが出てくる中、後半に入り順位も気になり始めている丹羽さんの心の声をご覧ください。

 

文=丹羽 薫


UTMBの各エイドまでのタイムチャート。緑色のエイドではサポートクルーによるサポートを受けることができる

 

クールマイユール(79km)~アルノーバツ(96km) 
 
ク―ルマイユールCourmayeur)を過ぎると、84km地点のベルトーネ小屋(Refuge Bertone)まで登り、稜線を96km地点のアルノーバツArnouvaz)まで進む区間です。ベルトーネ小屋に登るまでは少しガスが出ていると思っていましたが、稜線に出たときに、それが雲であったことがわかりました。自分の眼下には雲海が広がり、左方向にはまるで自分のすぐ横にあるかのような距離感で、グランドジョラスGrandes jorasses)の山々の絶景が現われたのでした。それはもう、息をのむほどの美しさで、言葉で言い表わせないものでした。

 


唯一自分で撮った写真。グランドジョラスの山々は息をのむほどの美しさだった

 

こんなところにいるはずのない選手が・・・
 アルノーバツ(96km地点)までの区間を最高の気分で走っていると、まさかこんなところを走っているはずがないと思われるランナーの姿が見えました。「絶対に人違いだ」。そう思いながら、追い越す際に振り返ってみると、やはり明らかに顔色のよくない大瀬和文選手でした。直前のサポートエイドのク―ルマイユールでは、大瀬選手は調子がよさそうと聞いていたので、大瀬選手と一緒に表彰台に立つことを想像しながら自分自身を鼓舞していました。大瀬選手の体調が悪そうな様子は、私にとって信じられない光景でした。

 一瞬返す言葉に詰まりましたが、大瀬選手の状態を確認して、「しばらくペース落として我慢すれば回復するかもしれないし、あきらめちゃだめだよ! 絶対ゴールしようね!」と大瀬選手と少し言葉を交わし、先に進みました。ここからフィニッシュ地点までは約80kmもあるので、土井 陵選手がそうであったように、きっとどこかで大瀬選手の体調が回復して、笑顔で私を追い抜いてくれることを期待しながら走り続けました。

 また、しばらく走ると、今度はチームチョキ(※)の友人の姿が見えました。少し会話をしたところ、友人は膝の調子がよくないので、無理せず完走目標で進むということだったので、友人の膝がこれ以上悪くならないように祈って別れました。

 本来なら私より圧倒的に速いはずの大瀬選手やチームチョキの友人。そんな2人を追い抜くとは・・・。やはり100マイルレースでは何があるかわからない。それが100マイルレースの醍醐味でもあると感じました。

※チームチョキ:丹羽さんと友人で結成したトレイルランニングチーム。京都を拠点に活動している

 


表彰台に立つことをイメージしながら自分を奮い立たせて進む photo by Onodera

 

アルノーバツ(96km)~シャンぺ湖(124km)
 
100マイルを走るときは、いつも“100kmまではウォームアップ”という鏑木 毅さんの言葉に従って走っています。今回も、もちろんそうだったのですが、翌日の日中の気温が上昇することがわかっていたので、涼しい夜から早朝にかけては、オーバーペースにならない範囲でしっかり走り、コース上の最高標高地点(2525m)であるフェレ峠Gtand Col Ferret)までは、涼しいうちに通過したいと考えていました。いま振り返ってみると、この作戦はそれなりにうまくいったと思っています。暑くなり始めるまでは、ずっと気持ちよく走れ、このままどこまでも走り続けられのではないかと思えるほどでした。

 フェレ峠からの長い下りでは、違和感のあった左膝に痛みが出始めましたが、下りが積極的に攻められない程度で走りに大きく影響するほどではなかったため、登りで遅れを取り返せばいいとポジティブに考え、次にサポートクルーに会える、124km地点のシャンぺ湖Champex-Lac)のエイドでテーピングを貼ろうなどと考えながら走りました。ただ、この辺りから順位が気になり始め、前に少しでも追いつきたい気持ちと、後ろから抜かれる可能性を考えると、ゆっくり膝のテーピングを貼る心の余裕がありませんでした。痛みがひどくなったら貼ろうと決め、とにかく早くエイドから出発することを優先しました。

 


声援を受けながら、140km地点のトリエントの街を駆け抜ける photo by Onodera

 

シャンぺ湖(124km)~トリエント(140km)
 
ついに、ここから勝負と考えていた124km地点のシャンぺ湖(Champex-Lac)に到着。しかし、標高が低くなるにつれ、気温も高くなり、暑さにやられ始めていました。そして、シャンぺ湖までに、かなり後ろにいたはずの女子選手に差を詰められていたようで、エイドを出てすぐに凄い勢いで抜かれてしました。ゆるい登りだったのですが、その女子選手のあまりのパワフルな走りに目を疑い、これは到底ついていけないと判断しました。
 いま思い返せば、あれは教科書どおりの抜き方だったのですが、人間というのは疲れていると変なことを考えるもので、なぜか「あのランナーは私を抜いたのではなくて、私の前にいた人がエイドで休んでいて、元気になって出発したんだ。だから私の順位は変わっていないはずだ。そうでなければ、あんなに走れるわけがない」と、事実と違うことを思って納得し、特に焦ることなくダラダラと先へ進んでしまったのです。すると、急激に疲れを感じ始めてしまいました。このまま熱中症になったら元も子もないので、ペースを落として水をかぶりながら進みました。これが本当に正しい判断だったのか、ただ単に疲れで自分に甘くなっていたのかいまだにわかりません。ペースを落としたことにより、集中力が切れ、さらに眠気も襲ってきました。今回、つらかったボウヴァインBovine)までの登りをフラフラと登りきり、トリエントTrient)までの下りで膝が痛くならない走り方を探りながら走っていると、少しずつ集中力が戻ってきました。

 やっと、意識がはっきりとし、正常な判断ができるようになってきてきました。走っている最中に「オルガニックを飲んで気分を引き締めたい。ジェルばっかりで口が甘いから、おにぎりせんべいや梅干しが食べたい!」などと、あらゆる欲求を抱えながら、サポートクルーの待つトリエントをひたすらめざしました。

 トリエント(140km地点)に到着し、しっかり補給をして、目も覚めました。すると、「このままではもっと抜かれてトップ10入りができなくなってしまう。今までのがんばりが水の泡になってしまうことだけは避けたい!」という思いが次第に生まれてきました。自分の心に渇を入れて、トリエントのエイドを出てからはしっかりと走りることができました。

 

【連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート 第4

【連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート 第5話

【連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート 第1

連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート 第2話

【連載】丹羽 薫のUTMBレースレポート 第3

 

 

丹羽 薫(にわ・かおり) 
三重県で生まれ、岡山で育つ。高知での大学時代はヨットに明け暮れ、卒業後はオーストラリアへ。念願だった馬の調教などの仕事に携わる。帰国後は神戸に住み、六甲山で犬の散歩をしながらボルダリングやスキーに熱中。結婚して京都に引っ越してからトレイルランニングと出会い、元々山やキャンプなどのアウトドアが好きだったのもあり、すっかりはまる。じつは結構ゲーマーだったり、ピアノも習っていたが全部やめて、現在はトレイルランとスキー三昧の現在を送っている。愛犬と野山を駆けめぐるのが最高の幸せ。(写真=新名健太郎)
◆丹羽 薫さんのMtSNマイページへのリンクはこちら

 

【2016の戦績】
第2回 奥三河パワートレイル 70km 3位
第2回 Mt.Hiei INTERNATIONAL TRAIL RUN 50km  4位
UTMB 170km 8位
UTMF(短縮コース)44.8km 3位
志賀高原エクストリームトレイル 60km 優勝

 

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