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吉原 稔のIAUトレイル世界選手権レースレポート

2016.12.22

2016年10月末、ポルトガルのブラガで開催されたIAUトレイル世界選手権に日本代表選手として出場した吉原 稔さんのレースレポート。2016年から本格的にトレイルランを始めた吉原さんが、日本代表選手のチケットを手にし、初めての世界選手権で見たもの、感じたものを語っています。

 

文=吉原 稔

 「あの舞台に心を奪われてしまった」
 午前5時。まだ朝日は顔を出していない。橋の上はちらちらと揺れ動くヘッドライトの明かりで埋め尽くされていた。スタート15分前に到着した選手たちは慌ただしい様子だ。スタ―ト時間が近づくにつれ、レースオーガナイザーのアナウンスが一段と大きくなった。そして、カウントダウンが始まった。

 “Three! Two! One! GO―!!!”
 総距離85km、累積標高差5000mの戦いが始まった。
 そして、これがIAUトレイル世界選手権に初めて出場した“チームJAPAN”の夜明けだ。

 

日本代表選手が初参戦。現地では驚きの連続だった
 レース3日前、私を含めた日本代表チームは、24時間にもわたる移動を経て、ポルトガルのポルト空港に到着した。IAU(国際ウルトラランナーズ協会)が主催する、トレイル世界選手権に出場するためだ。“チームJAPAN”が初参戦するこのレースは、世界40の国と地域の選考を勝ち抜いた猛者302名がエントリーする世界選手権だ。日本からは私と、大瀬和文、小原将寿、大杉哲也、大石由美子、太田美紀子、吉住友里という名だたる選手たちが日本代表として参戦した。

 ポルト空港に降り立ち、移動疲れが残る私たちをまず驚かせたのは、笑顔で迎えてくれた男性だった。この男性はレース運営スタッフで、宿泊施設から60km近く離れた空港まで足を運び、各国選手団を迎え入れていたのだ。空港でおもてなしをしてくれるレースは今までに経験がなく、思わず感動してしまった。

 私たちを驚かせた待遇はこれだけではない。眺めのよい宿泊施設もその一つだ。空港からさらに移動し、到着したのは、ポルトガル第三の都市“ブラガ”を一望できる、教会を中心としたホテルだった。そこから見える景色は、山梨県のほったらかし温泉から甲府盆地を眺めているようだった(わかる人しかわからないと思うが・・・)。そして、そこに各国選手団が一堂に会して食事をしている光景は、まるでオリンピックの選手村のようだった。ワクワクする最高の気分だった。

 


“チームJAPAN”に用意されたホテルからの美しい眺め

 

 そんな最高の環境でリラックスしていた私たちの気持ちは、レース前日の開会式で一変する。開会式では、ブラガのメインストリートを各国選手団が国旗を掲げ、順々に行進した。行きつく先は大勢の観客に囲まれた中央広場の舞台の上。地元ポルトガルチームが行進する際の歓声はもちろん凄まじかったが、私たち日本チームの「ありがとう!」を言いながらの行進も、大いに会場を沸かせた。
 「いよいよ明日、世界と戦うのか・・・」。そんな実感が急に沸き起こってきた。

 


チームJAPANのメンバー。選手は、大瀬和文、小原将寿、大杉哲也、大石由美子、太田美紀子、吉住友里、吉原 稔

 


盛り上がりを見せる開会式

 

85km(累積標高差5000m)の旅が始まった


コースマップ


 レースは思っていたよりもかなりのスピードレースとなった。スタート直後のコースは登り基調で、日本のレースであればトップ集団を形成できるようなスピードで入っていった。私の体感スピードは3’30/kmを切るくらい。しかし、それでも、私の位置は中ごろあたり。前を行くトップ集団とかなりの差が開き始めた。先頭のスピードは計り知れなかった。

 コースは、ポルトガルが誇る自然と人の歴史が調和するペネダ=ジェレス国立公園が舞台だ。イメージはアルプスの少女ハイジ。ハイジが駆け回っていた野山を、傾斜をつけ、ガレ場を増やし、そして、おじいさんが住んでいる山のふもとの村を石畳にしたような。そんな村をいくつも通り抜けるコースだった。この時期としては珍しく、30℃という高い気温がレース開始3日前から続いており、高温な気候のためできた乾いた路面が高速レースを加速させる要因となった。

 


コース上に多くみられたガレ場


 10kmを過ぎても展開は変わらなかった。レース後半のために体力を温存しようとしていないような、ガレ場での下りのスピード。登りの歩きの速さ。「気を抜いたら振り落とされる」。そう思ったのは、きっと私だけではないはずだ。それは、緊迫したムードに表われていた。私は、どこかに笑顔を作れるだけの、他人を気遣えるだけの余裕をもって走れるのがトレイルランニングという認識を持っていた。しかし、その時の状況は、本気で記録を狙いに行く時のマラソンのそれだ。誰も応援やカメラに笑顔で応えることはない。私の知るトレイルランニングはそこにはなかった。あるのはマウンテンマラソンだった。

 


ポルトガルの歴史と自然が調和したコース
 

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