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「TJAR2016 - 鉄人たちの熱い夏」 Ver.12 玉置千春(※初出場)

2017.12.23

玉置千春 ナンバーカード23  DNF(3日間3時間31分、双六小屋) ※初出場

松田珠子=取材・文

 

 双六小屋に着いたのは、3日目の3時をまわっていた。上高地の関門時間は朝8時。トップグループのペースで進んだとしても、間に合わないのは明らかだった。玉置千春はリタイアを決め、事務局に連絡を入れると、最後尾の自分についてくれていたスイーパーの飴本義一、大西靖之に感謝の気持ちを伝えた。

「序盤から暑さで体が動かず、ペースが上がらなかった。時間は間に合わなかったけど、体力はまだまだ残っていたので、本音ではタイムオーバーでも上高地までは行きたかった。でもスイーパーのお二人を振り回している感が半端なくて、これ以上つき合わせてしまう状況がいたたまれなかった」

 玉置千春はそう振り返る。飴本、大西がそのまま上高地まで行くのなら、自分も行きたいとも思ったが、すでに前とは7時間以上の差がついていた。飴本、大西は下山を選択。玉置も一緒に下山することを決めた。

 初挑戦のTJARは、3日間3時間31分で幕を閉じた。
 


薬師岳山頂にて。北アルプスのスイーパーを務めた大西靖之(左)と飴本義一(右)

 

<蒲田から三鷹まで歩いて……>

 東京郊外の緑豊かな環境で育ち、現在も在住する。小さい頃から、2歳上の兄や近所の子と駆けまわって遊んでいた。幼稚園の頃には遠足で高尾山に登った。両親は、玉置が小学生の頃から、夏は富士山、冬はスキーに連れていってくれた。初めて富士山に登ったのは4年生くらいのとき。以降の数年間、夏には家族で山頂まで登ったという。
 走るのも得意だった。小学校の6年間はリレーの選手。中学では周囲から陸上部を薦められたが、2歳上の兄が陸上部だったことから一緒が嫌で、合唱部に入った。
「強豪の合唱部だったので基礎体力が必要で、朝練で走ったり、腹筋背筋をしたり、けっこう体は動かしていましたね」

 高校時代は部活には入らず、アルバイトに明け暮れた。なんとなく学校に馴染めず、悶々とした日々を送っていた玉置だが、内には何かをしたいというエネルギーが溜まっていた。
「体の中から湧き上がる熱い、エネルギーをどこにぶつけたらいいんだろう…みたいな。とにかく歩けるだけ歩いたり。短大に行く前に専門学校に通っていたんですけど、学校があった蒲田から三鷹の自宅まで、多摩川沿いを歩いて帰ったりもしました。20㎞くらいなので、今思うとたいした距離ではないけど、当時はちょっとした冒険気分でワクワクしたのを覚えています」
 このときは走りではなく歩きだったが、「この頃にやっていたことが今につながっているのかも」と玉置は言う。

 走り始めたのは、社会人になってからだ。
「10年くらい前、もう一度スキーをやりたくなって、冬にスキーに行くようになった頃、基礎体力がないなと思って、皇居を走り始めたのが最初です。週に1回、2周するのが目標でした」
 そこから、冬はスキー(当時は基礎スキー)、夏はランニングに取り組むようになった。ランニングの大会にも出るようになると、めきめきと記録を伸ばした。

 スキーをきっかけに、夏山にも行くようになった。初めてのアルプスは2012年夏。北アルプスの山小屋泊のガイド付きツアーに参加した。その後、トレイルランを知った。
「トレイルランを知って、山って一人でも行けるんだ、と」

 ちょうどその頃、雑誌『山と溪谷』でTJAR2012の記事を目にした。そのときの印象は――。
「おもしろそう!と。そのときは知識がなくて、エントリーできるのかなと調べてみたら、いろいろ条件が必要なんだな、それじゃ今は無理だな、と。でもそういうレースがあるんだと自分の中にストックして。そこから、自分一人でもアルプスに行ってみようと、行くようになりました」

 翌13年シーズン、初の単独アルプス山行は、北アルプスだった。
「いちばんはじめは、高速夜行バスで上高地に行って、奥穂高、北穂高を日帰りで。自分の意識としては、トレランの延長という感じでした。奥穂から北穂までけっこう破線ルートだったんですけど、破線ルートや危険マークのヤバさがわかっていない状態だった」
 ルート上には高度感のある岩場もある。切れ込んでいる箇所では「これは落ちたら死ぬな……」と感じたという。
「当時の力ではギリギリの計画だった」と玉置は振り返る。最終バスの時間ギリギリに下山した。天気にも恵まれたことも幸いしたが「今思えば、やっちゃいけないことだったなと」。無謀ともいえる挑戦だったが、下山後にはこれまでに感じたことのない充実感に包まれた。

 

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