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FTR100で発生した死亡事故の最終報告書が3月1日に公開。奥宮俊祐さんに聞きました

2018.03.10

取材・文=宮崎英樹(MtSN編集長、『山と溪谷』副編集長)

 

この最終報告書は、FTR100の実行委員会を中心に構成された「第3回 FTR100事故調査委員会」が作成したもので、12月末に仮中間報告書が、1月6日には中間報告書が完成していた。中間報告書の内容に、山岳遭難に詳しいフリーライター羽根田治さんによる所感を加えたものが、最終報告書として2/6付けで完成していた。それを3月1日に公開したのがこの最終報告書である。


※最終報告書をダウンロードする

 

●最終報告書完成までの経緯

今回の死亡事故は、17年11月18日(土)、FTR100のスタートから4時間が経過した9時11分、小持山と大持山の間で発生した。

レース参加者の50代男性がコース上から滑落し、斜面を落ちていくのを、後方を進んでいた別の選手Nさんが目撃していた。また、前方を走っていた別の選手Iさんも、滑落していく男性を目撃している。その後、埼玉県防災ヘリが滑落者を発見。大会本部は12時50分に死亡の連絡を受け、12時55分に大会中止を決定した。

事故調査委員会は、FunTrails代表で大会実行委員長の奥宮俊祐さん、埼玉県山岳連盟会長の石倉昭一さん、一般社団法人日本山岳救助隊の北島英明さん、元・東京都山岳連盟遭難救助隊長の橋本利治さんら、計7名で構成。

事故翌週の11月25日、まず現場検証を行なった。滑落開始地点を特定したのち、ロープを用いた懸垂下降で100m下降し、遺留品等を回収した。現場に下りた北島さんによれば、滑落者が落ちていったフォールラインはほぼ垂直の絶壁だったという。

また12月1日には、すぐ後方から滑落を目撃していたNさんから証言を得た。

そのほかにもなるべく多くの証言を集めるとともに、主催者内部でも議論を行なったという。現場が電波の入りづらい場所だったために情報が錯そうし、初動の遅れにつながった点の反省や、山中のスタッフの配置やロープ設置場所などに問題がなかったか、また救助・救護の体制に問題がなかったなどを検証した。

仮中間報告書は12月末にまとまり、奥宮さんはそれを携えて、警察・消防・市役所に説明に回ったという。

 

■奥宮さんに聞きました

3月2日、奥宮さんから話を伺うことができた。

「亡くなられた選手のご遺族からは、『次回大会も継続して開催してほしい。故人もそう希望しているはずです』とのお言葉をいただきました。また、故人が所属しておられたランニングチームの皆さんからは『俺たちはご家族も支えるけど、おっくんのことも支えるから』『次の大会で、故人の写真を持って一周したいから、レースをやってくれ』との言葉をかけていただきました」

「月命日にお墓参りに行ったり、ご家族とは何度もお会いして話す機会がありました。1月末には地域の『偲ぶ会』に参加させていただいて、終わったあとはチームの新年会にも呼んでいただいて一緒にお酒を飲んだんですが、チームの隊長さんから『今日の新年会は、おっくんのためにやったつもりだから』と言っていただきました。本当にありがたいことです。そして、『次の大会ではうちのチームも大会を支えるから』とも言っていただきました。もう、何と言っていいかわかないくらい嬉しかったですね」

 

■今後について

3月5日、秩父市で、警察や消防ほか関係各方面への「第3回 FTR100 報告会」が開かれ、第4回大会に向けての公聴会も行なわれた。公聴会では、第4回大会の開催についてさまざまな意見が出たという。この結果を受けて奥宮さんは「皆様からいただいたご意見を真摯に検討して、地元の皆様に受け入れてもらえるような、より良い大会をなんとか開催できればと思っています」と話している。
そして、第4回大会の実施については、「公聴会でいただいたご意見を実行委員会で議論・整理したうえで、地元関係各方面への説明会を実施し、そこで理解をいただけてからとなりますので、正式な案内についてはもうしばらくお待ちいただければと思います」とのことだ。

なお、第4回大会を実施するなら、との前提で、実行委員会内部で話し合われている改善案には以下のような内容が含まれているという。
・開催時期を早める →寒さ対策(低体温症等のリスク低減)、道迷い対策(落ち葉が少ないので道がわかりやすい)、病気・ケガのリスク低減、日照時間が増える(夜間走の低減)
・受け付けは「前日のみ」に変更 →睡眠不足での出走を避けるため
・推奨装備として「ヘルメット」を加える(スタート~A6あたりまで)
・「安全宣誓」に署名してもらう
・コース途中でメディカルチェックを実施
・参加条件の厳格化、例えば「夜間走を含む、距離70㎞以上のトレイルレースを完走していること」

そのほか、
・スタッフ間で確実な位置情報が共有できるスマホアプリを導入
・WMAJ(Wilderness Medical Associates Japan)と提携して救護マニュアルを作る
・FTRスタッフ向けの「野外救急法ワークショップ」を継続的に開催する
なども議論されているそうだ。

 

■山では事故は「起こるもの」と考える

最終報告書に「第三者意見」として所感を寄せた山岳遭難の専門家・羽根田治さんは次のように記している(一部抜粋)。
「レース自体に事故の要因があったとは考えにくい。あくまで推測だが、遭難者が歩く程度のスピードで事故現場に差し掛かったところで、なんらかの要因でフラつくかつまずくかしてバランスを崩し、木の枝を掴んでリカバーしようとしたが、うまくいかず転落してしまったのではないだろうか」
「山にはさまざまな危険が存在し、対処を誤ると取り返しのつかないことになってしまう。そうした危険を避けるためには、山の知識と技術を学び、マナーやルールを順守することが必要になってくる。それは登山者であれトレイルランナーであれ変わることはない。ましてトレイルランニングは、装備を切り詰め、不安定な山道をスピードを出して走り抜けるという点で、登山以上にリスキーだといっていい」
「レースの運営者は<事故は起こるもの>という前提のもとで、緊急時の連絡体系の整備や主催者側のセルフレスキュー態勢を含めたリクスマネジメントを進めるべきだろう」

そう、あえて急峻な地形を求める登山やトレイルランという行為に、命の危険は付きもの。はじめからセットで考えなければいけない。

 

そして、以下は筆者の私見である。

今回の事故は、主催者側がどんなに努力しても防ぎようがなかったと思う。
トレイルレースは自然環境の下で行なわれるものであり、選手が道に迷ってルートから外れないか、急病にならないか、崖から転げ落ちないか等々、主催者が全選手の安全管理を完全にコントロールすることは不可能だ。もちろん、だからといって主催者側が選手のリスクをできるかぎり減らす努力をしないといけないのも当然のことだ。
だが、主催者側が努力する以上に、選手にはより多くのことが求められる。
走るのが好き・速い、というだけで、山の怖さを気にも留めていない人が、ほとんど手ぶらに近い状態で山に入っている現状はないか? コースをロストし、表示を見失えば、自分がどこにいるのか、北はどっちか、どちらへ向かえば安全圏へ行けるのかもまったくわからなくなるトレイルランナーが多くないか? よくもそんな軽装で自然の中に入っていけるものだと、心配というより、あきれてしまうことだって多々ある。
今回の遭難者に限っていうなら、トレイルランだけでなく登山も好きで、レースでも多くの装備を担ぎ、下りもほとんど走らないタイプだったそうだ。また、奥武蔵が好きで、事故現場のコースも何度も通っていたそうだ。それだけ慎重な人でも、山ではちょっとしたことで命を失ってしまう。
山を愛し、レースを愛する人であれば、レースでも、プライベートで山に入る際でも、リスク管理はすべて個人持ち、何があっても必ず自力で下りる、というルールを徹底してほしい。裏を返せば、山では致命的な事故を起こさないように、事前に知識を身につけること、しっかり準備すること、自己をコントロール(抑制)すること、山ですべてを出し切らないことを、つねに、強く、意識して行動していただきたい。
そして、FTR100が今後も継続して開催されるとともに、すべての参加者が安全に下山することを切に願う。

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