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「TJAR2016 - 鉄人たちの熱い夏」Ver.27 船橋智 ナンバーカード12 5位

2018.08.15

「TJAR2016 - 鉄人たちの熱い夏」 Ver.27 船橋智 ナンバーカード12 5位(5日20時間24分) ※4回目の出場

松田珠子=文

 

 静岡駅以降は「早く終わりたい、終わらせたいという思いで必死に走った」。2年前には妻のお腹にいた、もうすぐ2歳になる娘がゴールで待っていてくれていると思うと、力が湧いた。
 船橋智は大浜海岸の砂浜に足を踏み入れると、最後の力を振り絞ってダッシュした。
 5日20時間24分、5位。4度目の挑戦で「夢の6日切り」を果たした。
 14年大会後に誕生した長女の名前は「海南江(かなえ)」。海から南へ――。船橋が、海から南へ進んだ先のゴールで、妻と娘が待っていてくれた。ゴール後のインタビューでは、「海南江がここにいてくれて記念になりました。ありがとうございました」と、照れたように語った。



家族に迎えられての最高のゴール(写真=山田慎一郎/MtSN)

 

 2010年に初出場して以来、14年までに3大会連続で出場。12年大会からは実行委員に名を連ね、選手マーシャル(スタッフ兼選手)として参加している。
 実行委員の役割としては、本業が経理職ということもあり、「お金まわりの管理」をメインに、中心的メンバーの飯島浩、田中正人らをサポートしている。
 10年大会は、初挑戦の舞台を楽しみ、6日17時間55分、5位。このレースへの適性があることを示した。12年は、足のトラブル(マメ、靴擦れ、ふやけによる皺の痛み)に苦しんだ。「大いに地獄を味わった」と振り返るが、初挑戦時の記録を上回る6日14時間47分で5位。



12年大会、剱岳にて。このときは晴れていた(写真提供=船橋)

 

 台風直撃の14年は、暴風雨による停滞もありながら6日6時間54分、3位。抜群の安定感を誇る。

 

<6日切りをめざし>

「特別なことは何もしていない」
 TJARに向けた取り組みを尋ねると、こう話す。基本的に平日は走らない。週末はレースを入れたり山に行ったりするが、家族の時間を優先させ、なるべく午前で切り上げて帰宅する。
「月間走行距離は頑張って200㎞いけばいいほうです。帰宅ランとかもしないですね」
 TJAR選手としてはトレーニング量は少ない。その代わり、規則正しい生活など、日常でのルーティンを大事にしている。月に数回のレースは全力で取り組む。14年までの3大会は、いずれも悪天候だった。16年に向けては「夢の6日切りを果たしたい」と語っていた。

 台風直撃の対応に追われた14年大会とは対象的に、16年は期間中を通して好天に恵まれた。16年も選手マーシャルとして出場したが、選手としてレースに集中することができた。
 スタート後のロードは、暑さを感じながら、集団の中で快調なペースで進んだ。終盤では松浦和弘、男澤博樹と競るようにペースを上げ、馬場島に8番手前後で到着。「ロードで完全燃焼状態」で山岳セクションへ。



16年大会。1日目、馬場島から山岳区間へ(写真=山田)


 ロードの疲労で、早月尾根を「フラフラになりながら」登った。剣山荘以降は、松浦、新藤衛、北野聡とパックになり、先頭が入れ替わりながら、よいペースで進んだ。
「きつい登りも、前後に選手がいると『頑張ろう』と思えた」



好天の中、早月尾根を進む(写真=田上雅之)

 


一ノ越を過ぎ、浄土山から五色ヶ原方面をめざす(写真=松田)

 

 スゴ乗越小屋に向かいながら、疲労の蓄積、体の重さを感じた。小屋でカップラーメンを食べるも、食欲がわかなかった。薬師岳からは、2年前の暴風雨を思い出しながら、スムーズに進んだ。
 初日は薬師峠でビバーク。3時間の睡眠をとった。

 2日目は深夜1時に行動再開。北野と、途中からは吉藤剛が合流し、黒部五郎小舎をめざした。その先の双六小屋には先行していた佐幸、雨宮、大原、松浦がいた。休憩後、北野とともに槍ヶ岳をめざす。
西鎌尾根も順調に前進。槍ヶ岳山荘以降は単独となった。この後も暑さは感じていたが、北アルプスは調子よく進むことができた。

 上高地のチェックポイントを15時45分に通過。交通量の多い時間帯のロード、トンネル地帯を「必死に走った」。

 2日目は奈川の集落でビバーク。境峠を深夜に通過。早朝に開店前のスーパーまるとを通過。中央アルプスに向かうロードは体が重く、コンビニエンスストアでの朝食をモチベーションに進んだ。だがあいにく「買いたいと思っていたものがなく」、やや精神的なダメージを受けた。
 木曽駒ヶ岳までの行程は、本来は「好きな登り」。だが、疲労なのか暑さからなのか、体が重く、思うように進むことができなかった。
「レース中は、調子が上がったり下がったりする。山と谷の、ちょうど谷が来てしまった感じでした」
先行する石田に追いつくことをめざしていたが、追いつかない。ペースが上がらずに進んでいると、後方から新藤、北野が追いついてきた。なんとか離されずについていこうと、食らいついた。
「このときが一番つらかった。新藤さん、北野さんのおかげで踏ん張れた」
 宝剣岳、空木岳と2人を追い、リズムよく進んだ。苦手とする空木岳からの下りを終え、駒ヶ根へ。駐車場付近でビバークし、市野瀬をめざす。

 市野瀬には4日目の早朝に到着。準備を整え、南アルプスへ。

 毎回、市野瀬から地蔵尾根、仙丈ヶ岳、熊ノ平あたりまでは苦しい区間だというが、スムーズに進むことができた。
「過去3大会とも、このあたりで調子が悪くなるんです。自分にとっての鬼門。今回、初めて順調に行けました」

 熊の平小屋でビバーク。再スタートし、5日目へ。朝4時頃、塩見岳の登りはきつく感じたが、ふと仙塩尾根を見やると、後続選手のヘッドライトの明りが見えた。
「みんな頑張っているんだな、と。自分も頑張ろうという気持ちになれました」
 三伏峠小屋でカレーを食べ、荒川岳、赤石岳と越え、聖岳をめざす。聖岳には19時半に到着。途端に疲れを感じ、下りは苦痛の時間だった。




三伏峠小屋に到着。カレーを食べた(写真=松田)


 聖平小屋まで下り、ビバーク。日付が変わっった6日目の深夜0時半に出発し、茶臼小屋、横窪沢小屋と下る。
井川オートキャンプ場には9時半に到着。「6日切り」が視野に入り、以降のロードはひた走った。
日が落ちてからは腹痛に見舞われ、ペースダウン。苦戦しながら進んでいたが、妻と娘が玉機橋までサプライズ応援に来てくれて「力になった」。



玉機橋で妻と娘の応援を受ける(写真=山田)

 

 静岡駅を過ぎてからは「早く終わりたい」という気持ちでラストスパート。そして大浜海岸へ。
 目標としていた6日切りを達成。ゴールでは、仲間たちが好物のどら焼きで作った金メダルをかけてくれた。

 



記録は5日間20時間24分。出場した4大会すべて、7日間以内でゴールしている(写真=宮崎英樹/MtSN)


「家族と仲間が待つ大浜海岸にちゃんとたどり着くことができて、目標としていた記録も達成できた。大満足のゴール」
 そう船橋は語る。
 18年大会に向けては、参加要件は満たしていたが、エントリーは直前まで迷っていた。
「16年で記録の目標が達成できたし、自分は4回も出ている。出たい人はいっぱいいますし、何回も出るのはどうなのかなという気持ちもありました」
 だが、TJARイヤーになると、「またあの贅沢な時間を過ごしたい」という気持ちが湧いてくる。
16年までは選手マーシャルとしての立場だったが、18年大会は一選手として、抽選の対象でもある。最終的には「出させていただけるなら、もう1回出たい」と、エントリーを決めた。
抽選会では、いちばん最初に名前が呼ばれた。
「びっくりしましたね。(実行委員のため)何か細工してるんじゃないかと疑われないか、心配になりました(笑)」

18年に向けた取り組みを訊くと「普段どおり。特に何もしていない」と、いつもの答えが返ってきた。
前述のとおり、船橋の普段のトレーニングはTJAR選手としては少ない。だが、トレーニングやレースのひとつひとつ、さらには日常生活を大事にしている。
「早起きするとか、お風呂上がりにストレッチするとか、日々のルーティンをきちんとやるのは相変わらずです」
妻の由美子さんは語る。さらに船橋について「計画を立てて、自分がやりやすいように段取りするのがうまい」と評する。
食生活も、特別なこだわりはないが、普段からヘルシーなものを好むという。
「カレーには鶏のささみを入れてほしいと言われます。鶏だったら、モモ肉より胸肉。もともと小食で、脂っこいものは好きじゃない。晩酌のおつまみは千切りキャベツ。豆類も好き。から揚げとかは、一人分の半分を残したり。女子みたいなんです(笑)」
レース中の補給は、あんこ、コモパン、バナナクーヘン。ジェルは「気持ち悪くなっちゃうから好きじゃない」と船橋。胃腸トラブルはあまりない。それは、体が欲しないものは摂らないということも大きいのだろう。

目前に迫った18年大会、どのようなレースをしたいか訊いた。
「記録は前回出させてもらったので、次は、ほかの選手たちと一緒に、TJARを存分に味わいたい」
一方で、レースに出るときは毎回「前回の自分を越えること」を意識している。また、実行委員としての立場から思うことがある。
「運営をやらせてもらって、選手としても走らせてもらえるのはすごく贅沢。選手間の雰囲気、空気感を味わうことができるので、それをきちんと運営側にフィードバックしたいですね」
5度目のTJAR、船橋がどのような走りを見せてくれるのか、注目だ。


 

■船橋智(ふなばし・さとし) 写真=山田慎一郎
1978年神奈川県相模原市(旧藤野町)出身、在住。高校時代は山岳部。大学時代から趣味としてランニングを始める。06年頃からトレイルレースにも参戦。日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)は11回完走。TJARは10年から4大会連続完走(12年より実行委員メンバー)。職業は不動産会社経理。


<主な戦績>
日本山岳耐久レース(ハセツネCUP) 9:38:31 2009年
富士登山競走 3:20:56 2011年
分水嶺トレイル 青梅スタート1位 2014年
フルマラソン 2:54:12 2012年(別府大分)

 

<選手へのQ&A>
 
――日頃の山行を含めた好きな山域は?
A: 北丹沢・陣馬山域=地元なので。
 
――今回のTJARの装備でのこだわり、工夫は?
A: 2014年から愛用している、inoxバックパック特注のドラえもん号ザック(飴本さんと兄弟)。その他は一般的なもので、特筆すべきものはないと思います。
 
――山行で必ず持参する補給食は?
A: あんこ系(羊羹、どらやき、大福など)、バームクーヘン。
 
――レース中、おいしかったものは?
A: 三伏峠小屋と荒川小屋の大盛カレー。
 
――レースが終わったら食べたかったものは?
A: 「エビスビール」。この一杯のために1週間頑張ってきたようなもので……。そして、なんといってもお供は「キャベツの千切り」で!
 

 

<装備一覧>

【ザック】 inox/Gabriel
【露営具】 モンベル/ULツエルト
【寝具】 モンベルのシュラフカバー
【マット】 山と道/Minimalist Pad
【ストック】 CAMP/XENON
【ライト】 ヘッド:ペツル/TIKKA XP2 ハンド:GENTOS/閃SG305
【ファーストエイド・ケア用品】ガーニーグー
【シューズ】 アディゼロmana7
【ソックス】 ITOIソックス
【インナー】 ファイントラック/フラッドラッシュパワーメッシュ
【レインウェア】 モンベル/トレントフライヤー上下」

 

船橋智選手、フィニッシュ後の挨拶(動画)

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