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望月将悟の初めての海外レースとなった、2011年トルデジアンの「手記」を再掲

2018.09.10

現在、イタリアのヴァッレ・ダオスタ州(アオスタ州)という場所で、「トルデジアン」という山岳レースが開催されています。

私は2011年初めての海外レース「トルデジアン」に挑みました。レース後に感じたことを、『山と溪谷』で記事にしてくれていました。

アオスタの山もBIGで、そこに住む人の心もあたたかくBIGでした。お時間ありましたら読んでみてください^

私の愛する大会です。

望月将悟

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以下は、『山と溪谷』2011年11月号に掲載した望月将悟さんの手記を再構成したものです。>

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世界最長330㎞のトレイルレース「トルデジアン」
日本最強のウルトラトレイルランナーが初出場

望月将悟=文


 トルデジアン(Tor des Géants’ 巨人の旅)。僕がこの言葉を知ったのは2010年10月。全長330㎞、累計標高差2万4000mというとてつもないトレイルレースが、9月にイタリアで初開催されたという。詳細はわからないが、日本海から太平洋まで日本アルプスをつないで走る「トランス・ジャパン・アルプスレース」に初出場して間もない僕の中に「次はトルデジアンに出たい」という強い気持ちが湧いてきた。

 1年後の今年9月8日、僕は地元静岡のトレラン部仲間に見送られ、中部国際空港を飛び立った。海外レース初挑戦である。フランスのシャモニでは、目前にそびえるモン・ブラン、グランドジョラスなどの大きさに圧倒されつつ、山々からガシガシと力を降り注がれる気がした。

 


望月の初めての海外レースは2011年のトルデジアンだった。100時間2分27秒、総合13位で完走した

 

[スタート
 9月11日、イタリア・クールマイユールの教会には、20ℓほどのバックパックを背負った、様々な国籍・年齢の選手が集まっている。初の海外レースで僕は緊張しているが、周りの選手たちは、レース開始を今か今かと楽しみにしている様子だ。午前10時、スタート。僕らは石畳と花の美しい市街地を走り出した。ペースは速くない。それはそうだ、これから山の中を300㎞以上も走るのだから。まずは、今日一日で100㎞進むのが僕の目標だ。

 



モンブラン(イタリア側ではモンテビアンコ)のイタリア側の街・
クールマイユールがスタート/ゴール地点となる

 

 数キロ進むといきなり急なトレイルに入る。ポールを取り出し、周囲の選手に食らいついていく。ようやく峠だと思ったら、今度は一気に下り。周りのハイペースに惑わされ、体力を消耗してしまった。周囲には雄大な岩山が連なっている。YouTubeで見て憧れていたヨーロッパアルプスの真っ只中にいるのだ。最初の小エイドに到着すると、パン、クラッカー、コーラ、水、炭酸水、バナナ、オレンジ、チーズ、ハム、サラミなど食べ物が充実している。「食料を背負いすぎたか?」と後悔する。言葉はよくわからないが、どこから来たのかと聞かれたりした。

 


コースはアオスタ州のほぼ全域をぐるっと一周するトレッキングコース・Alta Viaをつなぐものだ

 

 48㎞地点、ヴァルグリサンシュの大エイドに到着。疲労感は強いが、すぐに出発する。雲行きが怪しくなり、日も暮れてきた。周りのランナーと離れ単独歩行となり、寂しくて不安も増してくる。後続のランナーには抜かれ、前には全然追いつかず、つらい。標高3200m地点で雨になり、風も出て寒い。僕を抜いた選手の後ろにつく。稲妻が光ると同時にバリバリという音がして、風景一面が赤く染まる。何度も雷が落ち、ワーワー騒いでいる僕に、スタッフや観衆は「Go、Go!」と叫ぶ。こんな所で置いていかれると大変だから、僕は全力で走り続けた。

 

 

[「旅」を強く意識し始める
 9月12日。深夜2時ごろ、経験したことのない急なアップダウンが現われ、年配の選手やちょっぴりメタボな選手にも抜かれる。ベッドで仮眠できる小エイドで休息をとる。女子トップの選手が到着するや、いきなり嘔吐を繰り返していたが、5分ほど寝ただけで走っていってしまった。僕は唖然とした。

 初日は驚きの連続だったが、気持ちは充足していた。僕の中で「レース」から「旅」へと気持ちが変わっていった。アルプスの絶景をこの目で見て、体で感じる旅にしたいと、強く思い始めた。
僕は30分ほど休んでから出発した。次の100㎞は、ほぼ一人旅となった。まだまだ先は長いと思いながら、歩いたり走ったり、周囲の絶景と応援に励まされながら進んだ。

 


コース中の随所にある小エイド。宿泊スペースが充実しているのもトルデジアンの特徴だ

 

 レース中間点の町ドンナスの手前にローマ時代の古い街並みがあり、深夜の通過は怖かった。だが大エイドでは、真夜中なのに大勢のスタッフが迎えてくれた。ここでもみんな親切に、食べ物、シャワー、寝る場所などを、簡単な英語やジェスチャーで教えてくれる。2、3時間は寝たかったが、僕を抜いた選手がたくさんいて、それを見たら長くは寝ていられない。体に痛みはなく、まだ行けそうだ。

 ただ、ひとつ問題が。ここまで20カ所ほどエイドを通過したが、同じ食べ物しかなくて飽きてきたのだ。パンやクラッカーをコーラに浸したりと工夫するが、やっぱりおいしくない。

 

 

 3日目、真夜中にドンナスの大エイドを出発。激しい上り下りにも驚かなくなってきた。夜明けとともにコーダ小屋へ到着。海外で初めてご来光を拝む。美しかった。眠くなったので少し休んでから出発すると、前方に女性選手の姿が。女子1位はもっと先のはずだから、2位の選手だと推測し、いっしょに進む。フランス人だ。言葉は通じないが、Col du Marmontanaの山頂で並んで靴を脱ぎ、休息した。

 第4の大エイドに到着。200㎞進んだが、足はまだ大丈夫だ。あと130㎞あるが、なぜか気持ちに余裕が出てきた。ここで初めて自分の順位を知った。27位。どんなものだろう? 1時間ほど仮眠をとって出発。このあたりからしだいに前の選手たちとの距離が縮まるが、すぐ眠気が襲ってきて離される。

 

 

 第5の大エイドに到着、残り100㎞だ。スパートをかけたいが、やはり睡魔が邪魔をする。2500m級の山々が続き、道は石がゴロゴロし、急斜面も相変わらず。睡魔にも勝てず、そのたびに10分、20分の仮眠を挟んでなんとか進み続けた。前後を走るランナーともすでに顔見知りだ。お互い励まし合い、すっかり仲間意識が芽生えている。第6の大エイドは少し休憩しただけで出発。ここで気合を入れた! 残り50㎞。ほかの選手のペースが落ちているのか、次々に抜いていく。不安や迷いはすべて消え、ただゴールの瞬間を夢見て進む。もう、きつさも感じない。正面にモン・ブランが見えてきた。モン・ブランの横に浮かぶ雲がフィギュアスケートをする女性に見えて、なんだか妙に記憶に残っている。気持ちも体も軽くなり、走り続けた。

 スタートから4日後、クールマイユールの街に戻ってくると、一生忘れられないくらいの大きな拍手と「ブラボー!」という声援を受け、僕はゴールした。


グランドジョラス~モンテビアンコ(左)の山々を眺めながら、フィニッシュ地点のクールマイユールをめざす選手
 

 

「巨人の旅」
 アルプスは大きいが、そこに住む人たちの心も大きく、優しい。彼らにとって山は生活の一部なのだろう。年齢・性別関係なく、だれもが気軽にトレランシューズを履き、山に登ること、山を走ることを楽しんでいる。レース中、心が折れ、くじけそうな僕を何度も励ましてくれたのも地元の彼らだった。

 アルプスで僕は、強くて優しい雄大な山、そして人々の姿を見て「自分もこうありたい」と思った。

 そしてこのルートが「巨人の旅」といわれる理由の一端に触れることができたと感じた。

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トルデジアン 公式サイト

 


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