MtSN

登録

【連載】国内外のトレイルを駆けめぐる、大瀬和文の “GOOD LUCK!" Vol.8 再びTDSの舞台へ

2018.12.26

ウルトラトレイルを得意とする大瀬和文さんの連載第8弾。2018年8月に開催された「UTMB2018」のレースカテゴリーの一つ、TDS(121㎞ / D+7300m)に出場した大瀬さんのレースレポートです。2017年のTDSでは、TOP10圏内にいながら、フィニッシュ地点の目前で熱中症で倒れてしまった大瀬さん。1年越しの思いをTDSにぶつけました。

 


文=大瀬和文 写真=一瀬立子

 

2017年のTDSはDNF
2017年のTDSでは、「このまま行けば10位以内、いや5位以内も夢じゃない」。
そう自分に言い聞かせながら前へ前へと進んでいた。

しかし、レース後半のコンディションは最悪で、96㎞地点のLes Contamines(レ・コンタミン)では食べられないどころか、水を飲むのもキツイ状態だった。

「後続の選手が迫ってきている。休んでいる暇はない」と、焦りがあった。
いつもなら、休憩をとっていたと思うが、この時は完走することよりも勝負にこだわっていた。

そして、最後のキツイ登り、Col de Tricot(トリコット峠)を登りきったところで意識を失ってしまった。夢の表彰台を目の前にして、私のTDSは終わってしまった。

「来年こそは」。その思いを胸に1年間トレーニングを積んできた。

→詳しくは、過去の連載記事へ https://www.mtsn.jp/special/special_list.php?id=1031

 

1年越しの思いを胸に、TDSへの舞台へ
2018年、再びChamonix(シャモニー)に戻ってきた。懐かしさを感じると同時に、気分が高揚しているのを感じていた。

TDSは自分にとって、今年のメインレースだ。スタートの日が近づくにつれ、「早く走りたい。今の自分を試したい」と強く思っていた。子どもが買ってもらったおもちゃで遊ぶのが待ちきれない。そんな感じだった。プレッシャーは無かった。

 

この1年の成果を見せる時。TDSのスタート
今年のTDSは、悪天候によりコース変更、および、スタート時間の変更が生じた。オリジナルコースでのリベンジを果たしたいと考えていたので、この変更はとても残念に思えたが、悪天候でも代替コースを用意してレースを開催してもらえることが本当に有り難かった。ここまできて、レースが中止になり、走れないことだけは避けたかった。

スタート付近は朝にも関わらず、選手と応援者で熱気に満ちていた。スタートラインに並ぶと、これまでの海外レースで出会った選手たちと声を掛け合いお互いの健闘を誓い合った。スタート時間が近づき、TDSのテーマソングである『彼こそが海賊』(※TDSスタート映像の3分から流れます)が街中へ鳴り響くと、気持ちの良い緊張感と高揚感が自分の中に満ちていくのを感じた。

 


以前チームを組んでレースに出場したことがある、 Marie Mcnaughton(香港在住)もTDSに参戦
 

周りには世界の強豪選手が勢ぞろい

TDSに出場する、上宮逸子選手(中央)と小川壮太選手(右)と


120㎞のレースペースとは思えない速いペースでトップ選手たちがスタート

 


TDS2018 スタート動画

 

 

スタート後、レベルの高さを改めて感じた。無理はしないが、先頭を狙える位置をキープして8㎞過ぎの最初のチェックポイントを通過。昨年より約2分速い通過だったが、順位は40番台と悪かった。

 


イタリアのCol du Petit(36㎞)。絶景が広がる


いろいろな所で観衆の熱烈な応援を受け、力が湧いてくる


好調なペースで笑顔を見せる

まだまだ序盤。自分のペースを保って

 

昨年より順位は良くなかったが、昨年とほぼ同じペースで走れていて、余裕もあった。51㎞地点のBourg Saint Maurice(ブール・サン・モリス)でサポーターが待っていてくれたので、確実に補給をしてトップ集団の様子を確認した。サポートには、ランニングフォームの指導をしてくれている小野寺先生がついてくれた。小野寺先生は、「全体のペースは少し落ちているから、ここからが勝負だ」と言った。計画した通りの展開だった。

 


快調な足取りでブール・サン・モリス(51㎞地点)に到着

最初のサポートエイド。落ちついてしっかり補給をして、出発!

 

2017年は、51㎞地点のブール・サン・モリスのエイドを出てからは一気に標高が上がっていく区間で、気温も上がり、我慢のしどころだった。

しかし、今年はコース変更によりなだらかに登っていくコースだったし、雨が降ったおかげでそこまで気温が上がらずに助かった。

 

またしてもトラブル発生。完走できるのか?
長い登りだが走りやすいコースだったので、少しずつ順位を上げていった。しかし、思った以上に順位が上げられないことに焦りがでてきた。

徐々に呼吸が上がり、水やジェルが飲みにくくなってきた。補給をしっかりしないと走れないので、呼吸を落ち着かせてはなんとかジェルを摂った。しかし、呼吸を整えているうちに、後続の選手に抜かれたことに焦り、十分な補給をせずに動き始めてしまった。

そのあとほどなくして、口の中に甘酸っぱさが広がった。そう感じた矢先、吐いてしまった。それからは吐き気と嘔吐が止まらなかった。吐き気が止まらない。補給もできない。でも、これ以上立ち止まっていることはできなかった。補給をしては吐くを繰り返しながらも、とにかく前に進んだ。

昨年より早い段階で体調が悪くなってしまったことで、「このままでは今年も完走できないのでは」という不安が脳裏をかすめた。

86㎞地点のCol du Joly(ジョリ峠)のエイドを出ると、雷雨に見舞われた。
雨に打たれながら長い下りを進んで行く。雨で滑りやすくなっている路面で何度も転んだ。それでも、脚は動いていた。まだ前を追う気持ちも失っていなかった。可能性を信じて歩みを止めなかった。

 

気力だけで前に進む
最後の峠、Col de Trict(トリコ峠)にさしかかった。昨年意識を失ってしまったこの場所を、麓から見上げ登り始めた。進んで行くにつれ、昨年のことがフラッシュバックしていた。

「このまま登って行ったら、体調が悪化して、昨年のように倒れてしまうのではないか」。不安な気持ちと葛藤しながらも前へ前へ進んでいると、山頂に着いた。
トリコ峠のスタッフが”Bravo!”、”Congratulation!”と声をかけ、励ましてくれた。有難かった。

なんとか96㎞地点のLes Contamines(レ・コンタミン)のエイドに到着した。ここはサポートが入れる最後のエイドて、丹羽 薫さんら友人たちや、サポーターの小野寺先生が笑顔で迎え入れてくれた。

「今年もダメなのか」と考えた瞬間もあったが、仲間に会ったことで不安な気持ちは覚悟に変わった。
「なんとしても完走する」。


辛さを表に出すと、周りの人を心配させ、その人たちも辛くなる。そんな様子をみると、自分ももっと辛くなる。だから本当は辛くても、常に笑顔で余裕があるように見せ、楽しく走りたい。この思いはいつも自分の中にある。そして、それを貫き通し、自分の限界にチャレンジすることも、順位と同じくらいこだわりたいことだった。

 


96㎞地点のレ・コンタミンに到着。体調が悪いが、仲間を心配させないように笑顔を見せる

 

96㎞地点のレ・コンタミンを出ると、また嘔吐した。

「大丈夫だ。あとは下るだけだ」。そう自分に言い聞かせ、なんとか進んだ。

最後のエイド、111㎞地点のLes Huches(レ・ズッシュ) には、歩くようなペースで到着した。思うように補給ができなくなってしばらく経っていたので、ギリギリの状態だった。

レ・ズッシュには、フィニッシュ地点のシャモニーで待っているはずの小野寺先生が待っていてくれ、本当に嬉しかった。シャモニーで再会することを誓い、エイドをすぐに出発した。

 


何度も吐き、補給ができないが、それでも前に進む。残り10km

完走を誓い、サポート仲間と握手をした

 

辿りついた1年越しのフィニッシュゲート
フィニッシュ地点では、深夜にも関わらず多くの人々が大きな声援を送ってくれた。

TDSは、今回も辛いレースだった。しかし、今年は昨年以上に完走したいという強い思いがあったし、仲間がサポートしてくれたので、無事にシャモニーに辿り着くことができた。

TDS(121㎞ / D+7300m) 総合22位 記録16:04:14

目標としていた順位には届かなかったが、今回のレースで大きな壁をまたひとつ乗り越えられたと思う。
そして、必ず次に繋がると信じている。

2019年はUTMB(100マイルレース)に出場することを決めた。
さらなる高みをめざして、自分との戦いはもう始まっている。

 


満身創痍、泥だらけになっても、完走することを諦めなかった

1年越しのフィニッシュに安堵の笑顔を見せる

トレイルランの世界に導いてくれた内坂庸夫さんに声をかけられて、涙が込み上げる

サポートの小野寺先生(右)と取材に入った一瀬と

 

【連載】国内外のトレイルを駆けめぐる、大瀬和文の “GOOD LUCK!" 過去の記事へ

UTMB 2018 リザルト

 

《取材協力》フィールズ・オン・アース

 

最新ニュース

進化したインソール、シダス「ラン3D」新登場
モニター募集中! 安定性と衝撃吸収力の高いラン3DプロテクトJPと、しなやかで軽量なラン3DセンスJP。自分の走りにマッチするモデルが選べる。
過去の記事を見る
MtSNが過去に掲載した注目の特集・連載記事のアーカイブ。ニュース記事のインデックスとしてご利用ください。
トレイルランPRニュース
イチ押しの大会や、最新のギアやサプリなどの注目情報はこちら!