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【追悼】強く、優しく、美しい山岳アスリート西田由香里

2019.02.14

2019年2月10日午前8時頃、中央アルプスの仙涯嶺(2734m)を、5人のパーティーで登山していた西田由香里さん(44)が登山道から滑落して亡くなった。

西田さんは、2014年にトランスジャパンアルプスレース(TJAR)を完走し、TJAR史上3人目の女性完走者となったことで多くの注目を集めた。ロングディスタンスに強いトレイルランナーとして有名だが、山岳スキーの競技会に出場し好成績をあげるなど、山岳スキーヤーとしても活躍していた。以前はマウンテンバイクの選手としても活躍し、マウンテンスポーツの経験が豊富で、とにかく山を愛する人だった。レース以外でも1年を通して山での活動を楽しんでいた。山を楽しむために厳しいトレーニングを積み、リスクヘッジをするための知識も身につけていた。

知識・経験・体力の全てが備わっていた西田さんが滑落して亡くなったことは、山岳スポーツを楽しむ多くの人々にとって、ひとつのメッセージのように思う。

マウンテンスポーツを楽しむためには、自分のレベルを知り、それに見合った活動をするべきであるし、できうる限りのリスクヘッジに取り組むべきだ。自然の中では、西田さんのように経験が豊富で、体力がある人でも、抗うことのできない力に引き込まれてしまうことがある。そういったことがあることを常に頭に置き、山に向かおう。そして、山を楽しもう。

山岳スキーを愛する山と溪谷社の横尾絢子は、レースや練習会で西田さんに会い、交流があった。西田さんが出場するレースで取材をしたこともある。そんな横尾が西田さんとの思い出を振り返る。

 


■西田由香里さんの思い出に寄せて 文=横尾絢子(山と溪谷社)

西田さんと言えば、いつも笑顔で、ちょっと天然でチャーミング。でも、本当にタフで強い。そして、美しい女性でした。

西田さんの美しさというのは、生き方が外見に滲み出ているような美しさで、西田さんと交流があった方なら、誰もがその魅力に惹かれていたのではないかと思います。

トレイルランやSKIMOでの活躍に加え、主婦として、母として、家事もトレーニングも妥協せずに命を燃やし続けるような生き様は、アスリートとしてだけでなく、人間的な強さと美しさが感じられました。

私は西田さんと山での活動をご一緒することはほとんどなかったのですが(実力的についていけないので・・・)、SKIMOのレースではいつもお会いできるので、そういった機会にお話できるのがとても楽しみでした。


   SKIMOのレースにて、西田さん(赤いジャケット)と横尾(写真中央) 写真=杉村 航

 

私が西田さんに初めてお会いしたのは、白馬でのSKIMO練習会でした。初対面の私にもとてもフレンドリーに話かけてくださいましたが、練習が始まると雰囲気は一変しました。

つい難しい急斜面を避けて、緩斜面を回り込んで登ろうとした私に、
「これくらい登れなきゃダメよ! もっとストックは前! そうそう!!」
と、超本気の本気モードで指導をしてくださいました。
「厳しい人だなぁ」というのが、そこでの第一印象でした(笑)。
しかし、練習から離れると、また雰囲気は一変し、柔らかな笑顔に。
スイーツの話で盛り上がって、「シュークリーム食べたいから頑張って走らなきゃって思う」とニコニコ笑っているような女性でした。

西田さんを「山の妖精」と例える方が多いです。
山のように懐が深く、どんな人にも安らぎと愛情を与えてくださる一方で、超一級の厳しさを持ち合わせていた方だったように思います。本当に山が好きで、山のことを理解していた方でした。
ハードなトレーニングを積むのも、より山の懐深くへ入るために必要だということが分かっていたからだと思います。

朝ランならぬ「朝常念」「朝蝶」(=朝食前に常念岳・蝶ヶ岳に登る)は、もはや西田さんの代名詞。でも、そういったハードなトレーニングを、とにかく楽しそうにこなしているように見受けられました。
山の中で動き回っていることが、とても自然な方でした。  

そんな西田さんだからこそ、山も西田さんを欲して、西田さんを連れていってしまったのでしょうか・・・。とにかく残念で、もうお会いできないことが寂しくてなりません。

 


憧れの西田さんとのツーショット写真に笑顔になる横尾(写真左)

 

一時期、「トップアスリートが多いSKIMOのレースに、私のような一般人が出場していていいのだろうか」と悩んでいたことがあったのですが、私のSNSに西田さんが次のようなコメントを寄せてくれました。

「横尾さんいてくれると良い雰囲気です!また次もお願いします!」

レースを盛り上げているのは間違いなく西田さんのほうなのに・・・。
こうやって誰に対してもその存在価値を認めてくださる方でした。

日本の登山界、山岳スポーツ界は、貴重な人を失ってしまいました。
でも、西田さんに思い出をもらった人はたくさんいます。
山の素晴らしさ、登山の楽しさ、それを西田さんは多くの人に教えてくれました。
だから、西田さんは、これからも山を愛するたくさんの人の心に生き続けます。

由香里さん、ありがとう。本当にありがとうございました。

 

 

西田由香里さんに心からのお悔やみを申し上げます。


                                               写真=小関信平

■西田由香里(にしだ・ゆかり) 
長野県松本市出身。長野県安曇野市在住。
スノーボード、スキー、MTB、トレイルラン、とマウンテンスポーツに競技志向で取り組む。
2児の母。

<トレイルレースの主な戦績>
2012 UTMF女子100マイル4位、美ヶ原70k女子優勝、日本山岳耐久レース71k女子3位
2013 IZUトレイルジャーニー70k女子3位、北丹沢12時間山岳耐久レース40k女子2位、スイスIRONTRAIL200k女子2位
2014 UTMF女子7位、大雪山ウルトラトレイル110k女子優勝、TJAR完走

連載「TJAR2014 30人の勇者たち」Vol.13 2014年の勇者たち(8)西田由香里

山岳スキー競技日本選手権大会体験記~MtSN編集部員ヨコオの体当たりレポート~

 

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