MtSN

登録

【インタビューシリーズ】若者のすべて vol.2 横内佑太朗 〜人を思うことで強くなる〜

2020.08.21

10代〜20代のトレイルランナーの今を描く、インタビューシリーズ「若者のすべて」。第2回は横内佑太朗さん。箱根駅伝出場以降、一度は走ることをやめた横内さん。あるきっかけで再び走り始め、世界を目指すように。横内さんを走らせる原動力とは?

写真・文=一瀬立子  
 


 

夢の箱根駅伝を目指す

小学生の頃から走ること、特に持久走が得意だったので、中学では陸上部に入って、1500mなどに取り組んでいました。夢は箱根駅伝で走ること。その夢を叶えるため、陸上競技が強い高校に進みました。練習はとても厳しいものでしたが、ハードなトレーニングを積み重ねる中で、夢は目標となり、自分の目標を実現化することだけを考える、そんな高校生活でした。うちは両親が離婚しているので、母が仕事をしながら僕の活動を最大限サポートしてくれていました。

しかし、大学進学の際には、「箱根駅伝のためではなく、将来のことを考えて就職に有利になるような大学を選びなさい」と、箱根駅伝を目指すことを母に反対されました。中学時代から思い続けたその目標をどうしても果たしたかった僕は、高校の顧問の先生の協力を得て母を説得し、地元・神戸を離れ、群馬県の上武大学に進学しました。

大学では、高校時代にも増して厳しい練習の日々が待っていました。部員は皆、寮で暮らし、寝食を共にしながら、箱根駅伝のメンバーに選抜されるべく切磋琢磨しあう関係。つまり、チームメイトはみんなライバル。母を説得して、自分の目標を叶えるために大学に進学した僕は、箱根駅伝に出場しないわけにはいかなかった。その思いは強く自分の中に刻まれ、日々ストイックにトレーニングに打ち込む日々を送りました。チームメイトが遊んでいる時も、気を緩めることはなかった。

練習の甲斐があって、大学2年で箱根駅伝のメンバーに選ばれました。自分の区間を走ったその1時間は、長年夢見てきたことが現実になった最高の瞬間でした。



大学2年で夢の箱根路を走る(写真提供= Yurato Yokouchi)

 

3年でもメンバーに選ばれていましが、チームの戦略として試合当日にまさかのメンバー交代。神戸から応援に来てくれた母に申し訳なくて、泣きながら謝りました。その後、一緒に応援したのですが、その時の母の顔が脳裏に灼きついて忘れられませんでした。

最後のチャンスとなる大学4年では、何としても箱根に出場したかった。しかし、故障が続き、夏合宿の参加もままならない状況。箱根の選手にとって夏合宿で調子のいいところを見せられないということは、箱根駅伝出場の道はほぼ絶たれてしまうことを意味します。しかし、それでも代表を決める秋まで決して諦めなかった。どうしても母にもう一度僕が走る姿を見せたかったからです。なんとか間に合い、代表に選ばれ、4年生で二度目の箱根を走ることができました。選抜メンバーに選ばれるまでの間、自分でも信じられないような故障と走力の回復を見せた。あの時、「人のために走ると、自分が持っている以上の力が出る」ということを実感しました。

 


 大学4年で出場した二度目の箱根駅伝(写真提供= Yurato Yokouchi)

 

まったく走らない日々

大学卒業後は、実業団に進んでマラソンで活躍したい、願わくば、オリンピックに出場したいという希望がありました。しかし、実業団から声が掛かることはなく、ここでランニング人生にピリオドを打つことにました。
会社員としてスタートを切り、新しい環境で仕事を覚えたり、仕事後に会社の人たちと飲みに行ったりする生活は、新鮮で楽しい日々でした。それまでずっと走ることが中心の生活だったので、競技のプレッシャーが無いことは正直とても楽でした。

そして、まったく走らない生活が3年目に入った頃、僕は物足りなさを感じるようになりました。新しい環境にも慣れ、日常に刺激を感じなくなってしまったのです。走ることやめ、体重は現役時代より10kgも増えてしまっていました。それでも、また走ろうと思ったのです。走ることから解放された日々は一時的な休息のようなもので、自分はやはり走ることで生きている意味を感じる面があるのだと思います。

決めたらすぐに行動を取る僕は、まずマラソン大会にエントリーし、それから、少しずつ練習を始めました。エントリーしてしまえば、それまでに練習をせざるを得ないからです。10kg増えた体は想像以上に重く感じ、まずは30分のジョギングからスタート。ダイエットと並行して、毎日のようにトレーニングをする日々が戻ってきました。そして、その時のフルマラソンを2時間33分21秒で完走しました。しかし、まだこの時は趣味として走っていました。

突然入ったスイッチ。僕は世界を目指すことにした

ある日、書店で何気なくトレイルランニングの専門誌を手にしました。そこで、「IAUトレイル世界選手権」に出場した選手たちの記事を見て、僕の体に衝撃が走りました。「これだ! 世界選手権の日本代表になりたい!」と。大学時代の「いつかオリンピックで走りたい」という思いが蘇ってきたのです。

それからすぐに、トレイルランの経験が無いにも関わらず、代表選手に選ばれるにはどうしたらいいかを調べ、実践経験を積むためにレースにエントリーしました。その頃にはトレイルランをしている知り合いがいたので、山に連れて行ってもらい、初めてトレイルランを経験しました。ロードランとはまったく違う環境の中で走るので、なかなか思うように走れず悔しい思いをしましたが、それでも目標を世界選手権に設定したので、トレイルランをやりたくて仕方なかった。

そして、世界選手権のことを知ってから半年後の代表選手選考レース「OSJ奄美ジャングルトレイル」で優勝し、世界選手権代表選手のチケットを手にしました。僕がまた活躍する姿を見て、母はとても喜んでくれました。そのことが僕のモチベーションをより一層上げることになりました。

 


 お母さんはいつでも一番の応援者(写真提供= Yutaro Yokouchi)


2019年6月にポルトガルで開催されたトレイル世界選手権は44km。前半はロード区間があり、走れるコースなので、走力に自信がある僕は始めから攻めていきました。しかし、初めて経験する海外選手とのレースは予想以上にペースが早く、「このペースで行くのか!」と驚きました。そのまま海外勢に食らい付いていったのですが、彼らは山に入ってもうまく走りのギアを切り替えて、トップスピードを維持したまま走り続け、序盤でオーバーペース気味だった僕は、彼らに引き離され、思うようなレース展開ができないままフィニッシュ。結果は98位。自分の実力不足・経験不足を目の当たりにしました。

 


世界選手権のフィニッシュ直後、悔し涙が溢れる(写真提供= Yutaro Yokouchi)

 

不甲斐ない走りが情けなく、今までにない悔しさを味わったことで、ふたたび世界選手権の舞台に立ち、良い結果を残すことを心に誓ったのです。目標はTOP10入り。とても高い目標だとわかっています。でも、僕はそこにたどり着きたい。だから、どうすれば目標を達成できるかを考え、トレーニング方法を自分なりに研究しています。

仕事以外の時間はトレーニングをメインにしています。今年に入ってから、仕事が終わる時間が遅くなることが増えましたが、それでも毎朝5時に起床して、走ってから仕事に行っています。山でパワーがある走りができるようにと、フィジカルトレーニングにも力を入れています。

僕は性格的に、好きなことを楽しくやっているように思われることが多いのですが、「楽しい」と感じるのは自分の感情の中の10%くらいです。仕事をしながら、世界の高みを目指すことは中途半端な気持ちではできません。世界選手権で同じ悔しさを経験することはもう二度としたくない。あの舞台に立つまで、とにかくトレーニングに打ち込んでいきたいと思っています。




 身長178cmの恵まれた体格から生み出されるダイナミックで美しいランニングフォーム


2020年、新型コロナウイルスの影響でトレイル世界選手権の代表選考レースの開催の中止が続いています。焦りや落胆がないといえば嘘になります。しかし、この状況はどの選手にとっても同じ。僕ができることは日々のトレーニングを続けること、それしかありません。

今、僕の目標は世界選手権の先に広がっています。20代のうちに100マイルレースに出場したい。小原将寿さんのようにUTMBの表彰台に立ってみたい。今年28歳になりますが、まだ20代。失敗を恐れず、思い切りやりたいことにチャレンジしていきたいと思っています。僕の人生は劇的に変わりつつあります、山を走り始めてから。

 



夢の箱根駅伝を走り終え、一度は終わった横内さんの走ることへの思いは、今、世界にまで視野を広げ次のステージに進んでいる。トレイルランの世界ではまだ若い27歳。この先の可能性は限りない。彼が活躍する姿を見て、同じように山を走り出す若者たちが増えていくのではいだろうか。そんなことも期待している。


【プロフィール】
横内佑太朗(よこうち・ゆうたろう) 1993年生まれ
会社員 / ロードランナー / トレイルランナー
asics サポートアスリート
フルマラソンベストタイム  2時間16分42秒
2018年からトレイルランを始める
2019年OSj奄美ジャングルトレイル 50K優勝
2019年ハセツネ30K 準優勝
2019年OSJ ONTAKE100 優勝
2019年IAUトレイル世界選手権日本代表

 

【インタビューシリーズ】 若者のすべて vol.1 柿本恵理

最新ニュース

上田瑠偉選手インタビュー
2019年スカイランナー・ワールド・シリーズで、年間チャンピオンに輝いた上田瑠偉選手。現役ランナーたちに伝えたいことを熱い思いと共に語り尽す。
過去の記事を見る
MtSNが過去に掲載した注目の特集・連載記事のアーカイブ。ニュース記事のインデックスとしてご利用ください。
トレイルランPRニュース
イチ押しの大会や、最新のギアやサプリなどの注目情報はこちら!