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【連載】「RUNNERS’TALK」 ウルトラトレイルレースの魅力とは? 最終回  文=野間陽子

2015.02.04

  ウルトラトレイルレースの魅力を紹介する連載の最終回(第4回)は、2014年10月末に参戦した100マイルトレイルレース「グラン・レイド・レユニオン2014」のレースレポートをお伝えします。

 グラン・レイド・レユニオンは、アフリカ大陸南東・マダガスカル島沖にある孤島、レユニオン島で開催されるトレイルレースです。レユニオン島は日本人にはあまり馴染みのない島ですが、フランスの海外県であるこの島は、異文化が織りなす独特な魅力を持つフランスの至宝です。日本における沖縄、アメリカにおけるハワイといった感じでしょうか。

 インド洋に浮かぶ、フランス唯一の火山を擁するレユニオン島は、長い年月の間、激しい雨風の浸食活動により、現在の急峻な3つの谷を形成し、独特な地形を作りあげています。死火山となったカルデラの中に、緑の森といくつもの街があります。

 気候もまた独特です。レユニオン島の南側は南極から吹く南貿易風が熱帯雨林を形成、その風が中央にある標高3000mの死火山を超えると、極度に乾燥したサバンナ気候を島の北側にもたらします。海底火山の噴火により海面上に姿を現したこの火山島は、海抜ゼロメートルから3000mという激しい標高差があり、そこにさまざまな植生を育みます。

 


スタートは22時30分。3度目の夜明けを迎えるまで
走り続けるレースへ、いざ出発!
 

カルデラの中のジャングルの森を通り抜けて、
遥か眼下に見える街までひた走る


 グラン・レイド・レユニオンにはいくつかの距離の違うレースがありますが、その中でいちばん長い100マイルのレースが「Diagonale des fous 」(“愚か者の対角線”の意)。地形と気候が独特なこの島の、南端から北端までを縦断する100マイルがコースです。暑かったり寒かったり、湿地のズルズル滑るトレイルだったり乾燥地の砂埃トレイルだったり、熱帯雨林帯だったり落葉樹林帯だったり、コースはさまざまに表情を変えます。

 グラン・レイド・レユニオンの歴史は古く、2014年は22回目の大会でした。ウルトラトレイル・ワールドツアーの最終戦でもあるこのレースは、数多くのトレイルランナーを魅了し続けています。レユニオン島ではトレイルランニングが国技のように盛んで、毎週末、島のどこかでトレイルレースが開催され、マガジンスタンドにあるスポーツ誌はトレイルランニング誌だけ、トレイルラングッズを扱う店も街に数多く並びます。

   スポーツというより、生活の一部としてトレイルランニングが存在する感じです。日本人が神社仏閣に手を合わせるように、ムスリムが日に何度も跪いて祈りを捧げるように、レユニオン島の人々は山を走ります。レース中にすれ違った70歳過ぎの男性トレイルランナーが言っていた“I have been running since I was 16. Trail running is our religion.”という言葉がとても印象に残っています。

 

  
(写真左)静寂な早朝の徒渉ポイント。日中は全身水浴びするほど灼熱の暑さになる
(写真右)乾燥した強い日差しの中、見上げた壁の上にある稜線までひたすら登る

 

 レユニオン島はトレイルランニングの聖地です。誰もが走ることの素晴らしさを知っているので、ランナーへの応援もまた熱烈です。エントリー者2300人のうち、1100人はレユニオン島在住者、1100人が本土から参加したフランス人、残り100人が外国人。今回日本からのエントリー者は22人で、外国人ではスイスに次いで2番目に多い参加者でした。レース前後の数日、新聞の紙面はグラン・レイド・レユニオン特集が多くのページを飾りますが、島の人々は日本人が多く参加している事実を知っていて、街でもレース中でも、“japonaise?”と声をかけてくれて歓迎の意を表してくれます。みなさん、来年はもっと多くの日本人に来てもらいたいと言っていました。

 今回のグラン・レイド・レユニオンには、鏑木毅さん、山本健一さん、横山峰弘さん、奥宮俊祐さん、渡辺千春さんら、そうそうたるトップランナーが参加されていて、順位やタイムを狙う競技をされた姿が記憶に新しいところです。私には順位やタイムを意識するようなスピードはありませんが、完走したいという思いは負けず劣らず持っています。思いを喜びにつなげるために、後悔することのないよう自分なりの事前準備をしました。

 


島内は絶景の連続。自然が作る芸術作品が次々に現れる


 補給とペース配分に留意して疲労をできるだけ小さくし、体力を温存しながらフィニッシュゲートを目指す。作戦と言うにはあまりにシンプルですが、細かいことを気にしても100マイルの旅は長いので、波瀾万丈を楽しむ勇気とタフさを胸に抱いて、いざスタートです。

 過去に参加したトレイルレースでは、100kmを過ぎたあたりからジェルもエイドステーションの給食も体が受けつけなくなっていたのですが、グラン・レイド・レユニオンではエイドステーションの給食ですべて乗り切れました。

 レユニオン島の人口の多数を占めるクレオール人の主食はお米なので、大きなエイドステーションでは白米とビーンズを煮込んだカレーと炭火焼のチキンがプレートでもらえます。これがお替わりをもらいたくなるほど美味しいのです。今回は、デポジットバッグに忍ばせておいたカップラーメンの出番はありませんでした。お米の威力の大きさを改めて感じました。

 

   
           

エイドステーションでの食事はマカロニや白飯と炭火焼のチキンや
ソーセージ スパイシーな豆カレーも美味

 

 ペース配分に関しては、長時間に渡るレースを走り続けるために体力を消耗しない走りを心掛けました。頑張るけれども、頑張り過ぎない。頑張り過ぎて消耗が激しくなるような走り方はしない。ゆっくりでも確実に走り続ければ、必ずフィニッシュできると信じていました。

 ただ、天候の変化でかなり体力を奪われました。スタートは夜22時30分でしたが、海抜ゼロメートルのスタート地点は立っているだけで汗が滲むほどの暑さ。月明かりのない夜空にはたくさんの星が輝いていました。そこから標高2000mまでいっきに登る間に天候が急変しました。上下ゴアテックス製のレインウエアを着てもしのぎきれない冷たい暴風雨に吹きつけられ、うつむきながら一生懸命走り続けました。

 気を抜いて走ろうものなら、すぐさま低体温症になるかと思うほどの寒さでした。駆け込んだエイドステーションでは、大勢のトレイルランナー達が毛布に包まり横たわっています。私も靴ヒモを解くのを手伝ってもらい、冷たい雨でびしょびしょに濡れたシューズとグローブから感覚を失った手足を解放しました。30分ほど毛布に包まり、リスタートする気持ちになった時にボランティアスタッフが優しく送り出してくれたことは、忘れられない思い出です。

 山間部のエイドステーションに配置されたボランティアスタッフは、選りすぐりの経験者だったのでしょう。濡れたウェアを脱いでアンダーウェアだけになりなさいと言われ、アンダーウェアの上から半分に折ってはさみで切り込みを入れたエマージェンシー・シートを首からすっぽり被せ、腕がうごくように切込みを入れて、脇をガムテープでグルグル巻きにされました。「外から被るよりも、中に巻くとずっと温かいから」。

 その上からウェアとシェルを着て、エイドステーションから送り出されました。エマージェンシー・シート製の下着の効果は絶大でした。そこから標高差800mほど下ると暑くなってきたので、袖の部分を破ってみたらまだまだ寒く、残った胴の部分は雨が上がって陽が差すまで、私の体を守ってくれました。

 そうかと思えば、渓流を渡りながら水浴びするほど暑い時間がふたたび訪れ、日陰のない灼熱のトレイルをひたすら登り続ける場所がやってきます。

 トレイルの形状も七変化します。サトウキビ畑の中を通り抜けたり、牧場の中を駆け上がったり、雨でぬかるんだトレイルを複雑に絡み合った樹の根や枝につかまりながら滑り降りたり、ひと山丸ごと石畳で敷き詰められた道があったりと、色々な顔を見せてくれます。

 


寒くて凍えいた前夜が嘘のよう。眩しい太陽が前に進む力をくれる

 


54時間49分でフィニッシュ。完走Tシャツとメダルを頂いて100マイルの旅が終わった

 

 距離172km、累積標高差10000m、制限時間66時間30分のグラン・レイド・レユニオンは、ゴールまでの間に四季が目まぐるしく訪れ、さまざまなトレイルが次々に現れる、飽きることのない変化に富んだトレイルレースでした。
 素晴らしいトレイルを走れる幸せに震え、何度も涙しながらたどり着いたフィニッシュゲートをくぐった時、完走したいという想いが完走できたという喜びに変わりました。たくさんの瞬間をつないだ私のレユニオン島での100マイルの旅は、最後まで走り続けて54時間49分で閉幕。フィニッシュゲートで首にかけて頂いたずっしり重い完走メダルは、ハードルをひとつ越えて強くなった自分の証しです。


■ウルトラトレイルで自分自身と向き合い、自分を知る


 私にとって、ウルトラトレイルは魅力がたくさん詰まった旅です。走ることでより長い距離を移動し、より広い世界を見ることができる。大勢の人々が支えてくれる中で、人と出会いふれ合う機会をもらえる。自分自身としっかり向き合う時間の中で、自分を知る。

 これから先、いつまで走り続けられるか分かりませんが、走れる限り走り続けたい。走ることは人生のすべてではないけれど、人生をより豊かに生きるためのエネルギーだと思います。

 

 

【プロフィール】

野間陽子(のま・ようこ)
1965年愛媛県松山市生まれ。東京都千代田区在住。マラソン歴11年、トレイルランニング歴7年。「UTMB 2013」44時間25分、「第21回日本山岳耐久レース」11時間09分、「UTMF 2014」35時間50分、「Andorra Ultratrail 2014」55時間21分。2014年10月にアフリカ・レユニオン島で開催された「グラン・レイド・レユニオン」(172km/累積標高差10000m)を54時間49分で完走。次のウルトラトレイルレースは、2015年7月の「アイガー・ウルトラトレイル」

 

 

【連載バックナンバー】

第1回 なぜ私はウルトラトレイルレースを走るのか

第2回 ウルトラトレイルレースの事前準備

第3回 補給のコツとペース配分

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