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連載 「Top Runner's Voice」 第4回 高村貴子

2015.09.25

取材・文=川原真由美

 MtSNに会員登録をしているトップランナーの、バックグラウンドや活躍ぶりを紹介する連載「Top Runner’s Voice」。第4回で紹介するのは、髙村貴子さん。TRランキングに忽然と姿を現わし、女子1位に上り詰めたのは北海道旭川市を拠点とする大学生。今夏、猛暑で過酷を極めた「山中温泉トレイルレース(71km)」を制し、にわかに注目を集める彼女の素顔とは?


2014年7月の大雪山ウルトラトレイル 遠軽ロングトレイル72kmで3位に入賞。
左から2人目が高村貴子さん(写真=宮崎英樹/MtSN)


MtSNのTRランキング(9/24現在)。高村さんは女子トップを継続中だ


高村さんの過去の大会成績。今年8月2日のOSJ山中温泉トレイルレース71kmの
優勝で0.00ポイントを獲得したことが、TRランキング1位の大きな要因だ


■陸上中距離から競技スキーへ
 髙村さんが生まれ育ったのは石川県白山市、トレイルランに親しみやすい環境のように思えるが、「私の住んでいたところは白山市でも平地のほうで、農業が盛んなエリアです。田園のなかの至るところに農道が走っていて、思えば走るのによい環境だったのかもしれません。小学生のとき、金沢市で行なわれた市民マラソンの親子の部に、父と一緒に出場しました。それがきっかけで中学校では陸上部(中距離)へ。高校でも何も考えずに陸上部に入部しました」。

「通っていた石川県立金沢泉丘高校は『文武両道』を掲げる進学校で、部活に打ち込んだあと、睡眠時間を削って勉強時間を捻出するような生活でした。そのせいか貧血に悩まされ、陸上競技をあきらめて、スキー部に転部することに。レジャーでは3歳から滑っていて、ゲレンデのポールバーンや競技スキーに憧れを持っていたのです」

 北海道旭川市で学ぶことになったきっかけは、「小さい頃お世話になった小児科の先生がとても好きだったこともあり、医師という将来の夢を持って進学先を考えていました。そんな高校2年生のとき、修学旅行で訪れた北海道に魅了されてしまい……。スキー環境にも恵まれた国立大学法人旭川医科大学に進学を決めて、今に至ります」。


■富良野でトレイルランと出会う
「大学2年生のとき先輩から “山を走ると楽しいよ”と誘われ、『富良野トレイルラン&アドベンチャー』に出たのがトレイルランとの出会いです。15kmという短い距離でしたが、レース中はずーっとつらく、ほかの選手の下りのスピードに驚いたり、“こんなところ走るの?”と怖くなったり。ゴールした後は歩くこともできませんでした。でも、それまでに味わったことのない高揚感、爽快感、達成感があり、うれしくて、うれしくて。入賞という経験も初めてで、トレイルランの虜になりました。人生が変わった気さえしましたね」

 2013年、初めてのトレイルランで3位入賞という非凡なデビューを飾った高村さんは、2014、2015年と、北海道のレースを中心に目覚ましい成績を残していくことになる。


■記憶に残る第2回大雪ウルトラトレイル
「いちばん印象に残っているのは、2014年の第2回大雪ウルトラトレイルです。初めての72kmという距離でした。ところが、40kmくらいで一緒に出ていた先輩と二人でハンガーノックになってしまって。まだ先も長いのにと絶望的な気持ちになりました。先輩に励まされながら進んで、ゴールできたときは感無量。いまゴールの写真を見ても、爽快ないい表情をしていると思います。選手どうしが声を掛け合い、励まし合いながらゴールに向かっていく姿にも感銘を受け、このとき、競うだけではなく楽しむことができるスポーツ=トレイルランに出会ったのだと思います」


スキー部の先輩と北大雪の稜線上で。初の長距離レースで疲労困憊したというが……

 

 後日談ですが、レースの数日後、合宿中にテレビを観ていたらニュースで大雪ウルトラトレイルが紹介されていて、そこには無残に疲れ果てた先輩と私の姿が…。改めて、一人の力で走り切れたのではないことを実感しました」

 このレースでも3位に入賞。MtSNの過去の大会リザルトには、この前後から女子優勝を示す『1』が目立つようになる。強さのヒミツはどこにあるのだろう。


結果は女子3位。強い充実感を感じたという。確かにいい表情をしている


■ありすぎる? 強さのヒミツ
 今年の8月、猛暑の真っ只中で開催されたOSJ山中温泉トレイルレース(71km)で女子優勝(リザルトはこちら)。生まれ育った石川県とはいえ、拠点とする旭川とは環境の差が大きいはずだが、「山に囲まれた山中温泉でも今夏は猛暑が続き、前日の説明会では給水についてくどいほど注意喚起されていました。当日は夕方まで32~34℃で、途中でフラフラしたり、座り込んだりしている選手がいましたし、私も体のしびれを感じて心配しましたが、なんとかゴールに辿り着きました」。


酷暑のなか行なわれた山中温泉トレイルレースでも実力を発揮した

 

「暑さ、寒さで結果に差が出るようではいけないと自分に言い聞かせていますし、実際あまり差が出ないほうです。でも、環境の違いによって起こりうるトラブルや、そのとき自分をコントロールできるかは、まだ未知の部分が多いと思います」


山中温泉トレイルレースでは並み居る強豪を抑えて優勝! 男女総合でも10位というから恐れ入る

 

「私は傾斜のある登りが好きで、つらいというより“重力に逆らって登っている!!”という感覚を楽しんでいます。疲れをあまり意識することはなく、景色を眺め、山の雰囲気を感じながらレースを満喫していますね。それに比べ、下りはうまくスピードに乗れず、苦手。ほかの選手のスマートな走りにヒントを探して、足運びやスピードコントロールの参考にしています」

「夏はスキー部の体力強化メニューで、部員とサッカーをしたり走ったりします。でも、私は人より多く努力しなくてはダメなほうなので…。これらに加え、講義のあとの限られた時間でロードを10~15km走ったりもします。レース以外でトレイルを走ることはほとんどできず、試走をしたこともありません。冬はアルペンスキーとクロスカントリースキーの複合競技をしています。スキーのトレーニングで始めたトレイルランでしたが、最近は逆転しているかも(笑)」

 一般の人から見るとうらやましい限り。というか、驚くばかり。非凡さを感じずにはいられない。


スキー部ではアルペンとクロカンの複合に取り組んでいる

 

■今年のハセツネ、そして海外へ
「今年、初めてハセツネ(日本山岳耐久レース)に出ます。強い選手が多いなかで自分がどこまで戦えるのか試したい。翌年の招待選手になれる20位以内が目標です。そして、数年内に優勝を狙いたいという夢もあります。今は40kmを超えると思うように足が動かず、70km以上のレースでは“やっとゴール”という状態なので、余裕を持って走りきれるようになりたい。そして、どんな選手を相手にしても、駆け引きをしながらレース運びができるようになることも今後の課題です」

「その先は、今年同世代の上田瑠偉選手が出場したCCC、さらにUTMF、UTMBの100マイルレースに挑戦して、トレイルランの魅力をもっと感じたいと思っています。今は学生の身で、宿泊を伴う本州の大会に出ることはほとんどできませんが、先を考えてチャレンジしていきたいです」


シルバーウイーク初日の9月19日はスキー部のクロカンズでモエレ沼のリレーマラソンに出場。
タイムも2時間35分27秒のタイムで、男女混合部門優勝! 左端が高村さん


■スポーツ経験を活かせる医師
 現在は医学部の4年生で、来年からは医療現場での実習が始まり、学業はいっそう忙しくなる。「今も大変ですが、トレイルランは自分を元気にしてくれるので、こらからも続けていきたいです。経験は浅いですが、コースに合わせて一からレースを組み立て、攻略することにトレイルランの醍醐味があると思います。そして、苦しくもあり、楽しくもあり、とても気持ちが高まる感覚を含めて、これから私が進んでいく道と共通するところがあると思っています」。

「今年5月に参加した峨山道トレイルランでは、高校生の頃から抱えている貧血に悩まされ、足が動かずフラフラになって、つらい思いをしまいました。貧血に限らず、腰や膝、肩などの痛みなどに苦しむ選手は多いので、スポーツと体のトラブルについて知識を積み上げたいと思っています。うれしいことに、スキー部OBの大学病院医師やスポーツドクターなど、よき相談者、アドバイザーに恵まれ、メンタルや心肺機能、走ることによる内臓への負担など、関心は広がるばかり。将来はスポーツをする人に役立つ情報を発信し、悩みに答えられるスポーツドクターであり、現役の選手でもいたいと思っています」

 

■インタビューを終えて
 旭川——東京という距離もあって、今回は電話での取材となった。「こんばんは。はじめまして」と電話口に現われた彼女の語り口はふわりとやわらかく、それでいて質問への回答は明快。その会話のなかで「なにも考えていなくて」という言葉が幾度となく出てきた。素の自分のまま、全力で挑んできたトレイルレースが、近い将来、緻密な準備とペース配分、巧みな駆け引きでコントロールされた「しっかり考えたレース」へと進化したら……。私たちはまた新しい高村さんに出会えるのだろう。


8月30日にトマムで行なわれたXTERRA JAPAN北海道大会、30kmで優勝(3時間10分12秒)。
いっしょに写っているのは北海道の強豪トレイルランナー原田卓弘さん

 


高村貴子(たかむら・たかこ)
石川県白山市で生まれ育つ。中学では陸上中距離、高校の途中で競技スキーに転向。スキー環境に恵まれた旭川医科大学に進学後は、アルペンとクロスカントリーの複合競技の学生大会において実績を残している。2013年の夏に初めてレースに参加して以来、トレイルランに熱中。山の風や変化に富んだ地形、可憐な高山植物の姿に日常とは違った楽しみを見つけながら、短期間でめざましい成績を修めている。


【2015年の成績】
第7回 ハセツネ30K 4位
第1回 峨山道トレイルラン(73km) 3位
第5回 カムイの杜トレイルラン(40km) 1位
GREAT EARTH サロモン富良野トレイルラン&アドベンチャー(15km ) 1位
第3回 大雪山ウルトラトレイル 白滝天狗トレイル(40km) 1位
OSJ山中温泉トレイルレース(71km) 1位
第1回 十勝岳トレイルin かみふらの・びえい(25km) 1位
エクステラ・ジャパンチャンピオンシップ北海道2015 (30km) 1位 

【今後の出場予定レース】
2015年10月 第23回 日本山岳耐久レース(71.5km)

 

連載【 Top Runner's Voice バックナンバー】

第1回 小川壮太
第2回 宮﨑喜美乃
第3回 丹羽 薫

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