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【レース直前連載:日本山岳耐久レースの歴史と今】(1) 「長谷川恒男とは?」

2015.10.21

 長きにわたり、日本を代表するトレイルレースであり続ける「日本山岳耐久レース=ハセツネ」の開催まであと10日。
 ここで、ハセツネの歴史回顧から今年のレース展望まで、いくつかのテーマに分けて、ミニ連載をスタートする。第1回の今回は「ハセツネ」について。

 

 日本山岳耐久レース。別名「長谷川恒男CUP」または「ハセツネ」。ではハセツネって誰?

 長谷川恒男。愛称ハセツネ。1970年代~80年代、世界的クライマーとして、また日本の山岳ガイドの中心として活躍した人物である。現在では「日本山岳耐久レース・長谷川恒男CUP」にその名が冠され、彼の愛称「ハセツネ」さんの名を知らないトレイルランナーはいないだろう。ではこのハセツネさんとは、いったいどんな人物だったのだろうか。


《ハセツネグラフィティ》 2008年大会は新星・山本健一が7時間39分16秒の新記録で優勝。
衝撃的タイムに会場はどよめいた(写真=加戸昭太郎)

 

 長谷川は1947年生まれ。17歳で岩登りを始め、22歳のとき同人「星と嵐」を設立、日本の登山界で頭角を現わした。
 長谷川が10~20代を過ごした60~70年代といえば、世界の8000m峰14座の初登頂が、64年のシシャパンマを最後にすべて終わったころ。長谷川を含む一部の優れたクライマーたちは、次なるターゲットとして、ヨーロッパアルプスの困難な岩場を「冬季」「単独」など、より厳しい条件で初登攀する方向に目を向けていた。つまり、「誰も成功していない危険なテーマだから、やる」のが、長谷川のめざす登山スタイルであった。
 74年3月、谷川岳一ノ倉沢第2スラブの冬季単独初登攀に成功、日本の登山界で不動の地位を築き、ヨーロッパアルプスに転じる。77年から79年にかけて、マッターホルン、アイガー、グランドジョラスの北壁を冬に単独で登り、アルプス三大北壁冬季単独初登攀に世界で初めて成功する。
 80年にはアルパインガイド長谷川事務所を開設。81年、南米最高峰アコンカグア(6959m)南壁の冬季単独初登攀に成功する。
 83年以降、ついに、ヒマラヤの8000m峰を自分のスタイルでめざし始める。だが、83年秋にはダウラギリ、84年春・秋にはナンガ・パルバット、85年~88年にはチョモランマ(エベレスト)に3回挑戦するが、一度も頂上に立てなかった。一般ルートからなら、頂上に立つことは簡単だ。だが長谷川は、すでに何人もが登っている一般ルートからの登頂には、何の価値も見出していなかったのだろう。
 90年には困難な未踏峰の初登頂に転じ、パキスタンの未踏峰ウルタルⅡ峰(7388m)に挑み敗退。同じ年には日本山岳ガイド連盟の設立に力を注ぎ、理事長に就任。また、U‐TANクラブなど10余りの登山グループや自然保護団体の世話もしていた。
 翌91年10月、再挑戦したウルタルⅡ峰で、長谷川は雪崩に巻き込まれ遭難死した。


《ハセツネグラフィティ》 2008年大会。鏑木毅と横山峰弘は同タイムの2位、3位でゴール
お互いの健闘を讃え合った(写真=加戸昭太郎)

 

「私は単独登攀をしているとき、物理的にはひとりであっても、多くの人に精神的に支えられていた。山が困難になるにしたがって、自分ひとりの能力ではどうすることもできなくなったとき、仲間に支えられてきた。過去3回のチョモランマ登山がそうだった」
 ルートを切り拓く喜び、単独でありながら仲間に支えられているという連帯感。難ルート、冬季、単独もしくは少人数という登山スタイルで、自分の山登りを表現してきた長谷川が、その想いを語った言葉である。
 パキスタンに学校を作りたいという長谷川の遺志は妻の昌美に受け継がれ、97年、ウルタルの麓、カリマバードに「ハセガワメモリアル・パブリックスクール」が開校した。また11年10月10日には、没後20年を記念して日本山岳耐久レースのコース上の御岳神社(第3関門・長尾平)に顕彰碑が完成した。

 長谷川は若いころ、自信家で狭量で、人づきあいが下手で、思いやりのない言葉を投げかけては何人もの友人を失っていたという。しかし後年は、他者への気遣いや謙虚さが生まれ、仲間を作り、仲間を大切にした。
「アルピニストというのは、山を登ることによって自己表現のできる人のことだと考えている」(『生きぬくことは冒険だよ』集英社文庫・絶版)と、ふだんから語っていたハセツネさん。ハセツネさんがやってきた、誰も登ったことがない困難な岩壁や雪壁から頂上をめざす命賭けの登山と、タイム競技であるトレイルランを同列に語ることは難しい。だが、同じように山を愛する仲間として、ハセツネさんがトレイルランナーに言いたいのは、やはり、「山で自己表現すること」そして「生きぬくこと」の2つではないだろうか。
(文=宮崎英樹/MtSN編集長・『山と溪谷』副編集長。「第21回 日本山岳耐久レース」2014年大会パンフレットへの寄稿を一部加筆のうえ転載)

 

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