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【レース直前連載:日本山岳耐久レースの歴史と今】(2)2009年大会を振り返る

2015.10.24

 今回は2009年大会を振り返る(写真=井上六郎、文=宮崎英樹/MtSN)。

 

 男子では後藤豊(写真右)が大きくクローズアップされた。前年に山本健一出した7時間39分16秒という大記録を、一気に7分半も短縮して優勝。惜しくも7時間30分切りこそならなかった。しかしレース後に「7時間10分台も見えてきた」と語った後藤の言葉に触発され、トップ選手たちはその後、まるで見えない壁から取り払われたかのように、さらなる高速化へと向かっていく。

 後藤の予言どおり、2012年にはダコタ・ジョーンズが、2013年には東徹が、さらに昨2014年には上田瑠偉が、さらなる高みへと続いていった。

 そうした高速化のきっかけを作った後藤の功績は非常に大きい。

 

 

 

 


※注:以下の文は2009年に書かれたものです。年代表記も2009年時点ですのでご注意ください。


 日本最高峰のトレイルレース、第17回日本山岳耐久レース(全長71.5km)が、2009年10月11日~12日に東京・奥多摩で開催された。

●トップ選手の戦い

 13時、五日市中学校を2070名の選手がスタートした。まずは男子選手から。

 昨年大会で山本健一が大会記録を一気に短縮したのを受けてか、上位選手の序盤のスピードが例年になく速い。約15km地点の醍醐丸(867m)では、06年優勝の実績をもつ沁在徳(韓国)と、初出場の後藤豊(板妻自衛隊)、尾崎友和(滝ヶ原自衛隊)の3選手がほぼ同時に通過。その3分後に07年優勝の相馬剛が続く。
 第1関門の浅間峠(22.66km地点)をトップで通過したのは沁。過去の区間最高記録をなんと約10分も短縮する2時間15分48秒の驚異的スピードだ。沁は装備軽量化のためザックは背負わず、ハイドレーションパックに紐を取り付け、そのまま背中に担いでいる。続いて尾崎が2位、後藤が3位で通過。


第1関門付近を通過する後藤
 

相馬剛は第1関門を4位で通過
 

 

 好調な選手とは対照的に、途中で食べ物を受け付けなくなるなどのトラブルで失速するトップ選手も今年は多かった。

 笹尾根を西進し、コース中の最高点・三頭山(1528m)を越えると、日も暮れて夜間ステージに入る。後藤はじょじょに沁を追い上げ、第2関門の月夜見第2駐車場(42.09km地点)ではその差わずか1分に。

 惣岳山の登りで沁をとらえた後藤は、大ダワ(50km地点)では逆に6分差をつけて逆転した。

 大岳山(1266m)ではこの差を8分まで広げる。第3関門の御岳山・長尾峠(58.00km地点)では、その差はついに14分まで拡大し、後藤は独走態勢を築いた。

 


大ダワ通過以降、後藤は2位以下との差を一気に広げた

 


相馬は第2関門~第3関門の間で順位を2つ上げ2位に浮上

 

 後藤は、昨年大会で山本が叩き出した7時間39分16秒の歴代最高タイムを、一気に7分28秒も短縮する7時間31分48秒でゴール。


前年の山本健一に続き、2009年も恐るべき新記録が生まれた
 

圧倒的新記録の誕生に、ゴール地点はしばらくの間、興奮の坩堝と化した
 

 2位には、第3関門の先で沁をかわした相馬が、歴代3位の7時間39分55秒でゴール、昨年のケガによる不振を払拭する走りを見せた。3位には序盤に驚異的ペースでレースを引っ張った沁が、4位には後半追い上げ型の望月将悟(静岡消防)、5位には念願の8時間以内を達成した奥宮俊祐(大宮自衛隊)、そして6位には尾崎が入り、男子総合入賞の6人全員が8時間を切るハイレベルな戦いとなった。


相馬は自己記録を大幅に上回るタイムを叩き出すも、2位に終わった


 一方の女子は、昨年、女子初となる8時間台でのゴールを達成した櫻井教美、今年のウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン(UTMB)で女子総合9位に入った間瀬ちがや、昨年大会3位の野村泰子の3選手が欠場。昨年大会で4、5、6位だった星野緑、鈴木博子、佐藤光子の3選手が、そのまま順位を繰り上げる結果となった。


第1関門付近を走る佐藤光子。この時点では今泉奈緒に次ぎ2位を走っていた
 

佐藤の約1分後に星野緑が続く
 

同じく星野の約1分後に鈴木博子が続いた

 


星野が10時間10分22秒でゴール。優勝なんて信じられない、という様子だった
 

星野は2位でゴールした鈴木と抱き合い、感動を分かち合った

 

 ハセツネCUPは、装備の充実、練習法の確立、一流アスリートの参戦などの要因から、今後さらなる高速化が予想される。優勝した後藤も「捻挫さえなければ、7時間20分台はふつうに、うまくすれば7時間10分台以内は出せた」と語っている。

 


リザルト 男子
 1位 後藤 豊 TEAM SPORTIVA 7時間31分48秒
 2位 相馬 剛 海上保安庁 7時間39分55秒
 3位 沁 在徳 KOREAマウンテンハードウェア 7時間42分21秒


中央が優勝した後藤、左が2位の相馬、右が4位の沁


リザルト 女子
 1位 星野 緑 10時間10分22秒
 2位 鈴木博子 VASQUE 10時間18分5秒
 3位 佐藤光子 ダーティーハニー 10時間45分30秒


中央が優勝した星野、左が2位の鈴木、右が3位の佐藤

 



●一般選手の戦い

 日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)は事実上、トレイルランの日本選手権」だが、トップ選手のためだけの大会ではない。16歳以上という年齢規定さえクリアしていれば、出場したければ誰でも出られる(ここ2年はエントリー開始当日で定員に達してしまう人気ぶりだが)。
 ハセツネCUPは、71.5kmという距離だけ見るととてつもなく大変なレースに思えるかもしれない。だが、通常の登山でも、1日の行程8時間で20~25kmくらいは歩いているものだ。
 

 

 ハセツネCUPのコースは、登山の標準コースタイムを合計すると約26時間30分。つまり、標準コースタイムより少し速いペースで歩き続ければ、制限時間の24時間以内にラクラクとゴールできるわけだ。
 実際、レースがスタートしてもまったく走らず、最後方から悠々と歩いている選手もたくさんいる(もちろん早足だが)。なかにはガスコンロやコッヘルを担ぎ上げ、途中でラーメンを作って食べたという選手もいる。それでも時間内にゴールできるのだ。

 上位入賞をめざして先を急ぐ選手から、24時間の制限時間内に完走をめざす選手までが同じ大会で共存しているのがハセツネCUPなのだ。スピードなど追求せず、24時間をフルに使って山を楽しむ、という発想も大いにありだ。
 ハセツネCUPはランナーにだけ開かれた大会ではなく、もともとは登山者のための大会だったし、今もそうなのである。
 参加者の年齢層も、男性は16歳から73歳まで、女性も16歳から70歳までとじつに幅広い。
 まだトライルランをやったことがないというあなた? 山を走るなんてとんでもない、自分にはとても無理、なんて思い込んでいるあなた? じつはハセツネCUP完走のハードルはさほど高くはない。ハセツネCUP完走には、みなさんが登山で培ってきたスキルが存分に生かせるのです。来年はあなたも出場してみませんか?

(※文は『山と溪谷』2009年12月号から一部加筆のうえ転載)

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