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連載 「Top Runners Voice」 第5回 大杉哲也

2015.11.30

 MtSNに会員登録しているトップランナーの、バックグラウンドや活動ぶりを紹介する連載企画「Top Runner's Voice」。第5回目は、関西が誇るスピードスター、大杉哲也さん。MtSNランキング は男子総合4位(2015年11月30日現在)。ショート〜ミドルレースで発揮する驚異的な強さの秘密に迫る!

文・写真=新名健太郎 取材協力=O.B.S.きさいち
 

 男は背中で語るもの……。古き良き日本にはそんな価値観があった。
 大杉哲也、33歳。5児の父。驚異の勝率と絶対的な安定感を誇り、チームサロモンを代表する選手の一人である。多くを語らず、その背中で関西トレイルランニングシーンをリードしてきた「浪速のスピードスター」は、幅広い経験を積んだいま、「来年が飛躍の年」と見据える。彼にとってシーズン最後のレース「第2回 FAIRY TRAIL びわ湖高島トレイルランニングinくつき を連覇で終え、2016年を見据えつつ、過去・現在・未来について語ってもらった。

 


仲間からは「スゴ杉」さんや「キング」と呼ばれ親しまれている


自衛隊の上司に資質を見出され、トレイルランデビュー

「中学では帰宅部ですね。僕は勉強ができなかったんで、中学の三者面談で、行く高校がない、って先生に言われたんですよ(笑)。それで昼間仕事しながら全寮制の定時制高校に行きました。すごく厳しい学校だったんで、いま思えばそこで挨拶の仕方から始まって、生きていく上で大事なことを学びましたね。

 高校では陸上部に入ったんですが、練習時間もあまりないので、5kmの記録は17分40秒くらいで、全然速くもなかったし、あまり楽しいとも思ってなかったですね。

 卒業後に、今の仕事(陸上自衛隊)に就いて、日々の訓練の中で走るようになり、徐々に走る楽しさがわかってきたのかな……。フルマラソンにも出るようになり、自己ベストは2時間31分くらいまで記録を伸ばすことができました。

 あるとき、アドベンチャーレースをやっていた上司が「お前、絶対山を走るのに適性があるぞ」って見出してくれたんですね。その頃は滋賀県に住んでいたので、ローカルレースで登りオンリーの「かっとび伊吹」に出場してみたら優勝できました。しかし勝ったことより、八合目あたりで振り返った時に見下ろした琵琶湖の光景に感動しまして……、これはすごく楽しいなと。それが2009年のことですね」



2009年、デビューした年の東山三十六峰マウンテンマラソンにて


レースに出れば優勝!の快進撃

 それからは、下りはまだまだ得意ではないものの、登りの圧倒的な速さで関西圏のレースでほとんど優勝するという大杉伝説が始まった。野人となって、走りに集中するあまりコースミスを連発。しかしそれすら大杉にとっては「ちょうどよいハンデ」と言わんばかりに、最終的にはトップでゴールするという破天荒さで快進撃を続ける。

 この頃はまだ2ℓのペットボトルを普通のザックに入れて、水を飲むためにいちいちザックを下ろしていたとか、レース中トップ争いをしながら携帯電話で仕事の話をしていた、という逸話も残るノンビリした時代だった。
 
関西で最も主要なレースのひとつ「チャレンジ ダイトレ」(大阪府チャレンジ登山大会)での連勝記録(5連覇中)は現在も継続中だ。

 


OSJ新城トレイルのようなアップダウンの多いコースを得意としている

 

筋トレ、ストレッチは一切やらない

 そして2011年、上越国際トレイルフェスでの優勝を契機にチームサロモンへ。全国レベルでも通用する本当のトップ選手となる。2012年、OSJおんたけスカイレースでの松本大選手との死闘。2013年のハセツネでの「下見なし」での当時歴代3位の好タイム。2015年のSTYでのセバスチャン・セニョー選手とのトップ争いは記憶に新しいところ。

 そんな彼の練習スタイルとはどんなものなのか。

「まず筋トレ、ストレッチは一切やりません。というかやる時間もないです。小3から1歳の子ども5人の世話と家事手伝いで、家では常に動き回っています。最近気づいたんですが、これがじつはトレーニングになっているのかなと(笑)。テレビを見ながらストレッチする、という優雅な時間には憧れますけど、実際にストレッチしようとしたら1分以内に子どもたち2、3人が体の上に乗ってきて、身動きがとれないでしょうね。

 今は自衛隊の中でもデスクワークのほうの部署にいるので、仕事中はトレーニングができません。平日は仕事が終わってから、できるだけ毎日10km走ることを目標にしています。40~50分しか時間がないので……。土日は早朝4時台から7時くらいまで、近所の生駒山にヘッドライト付けて走りに行くというスタイルを繰り返しています。標高642mの生駒山を2往復。走り終わると、ちょうど子どもたちが起きてくる時間なので、そこからはまた子育ての時間ですね。土日くらいは嫁さんを休ませないといけませんから。
 ただ睡眠はたっぷりとります。基本的には子どもたちを寝かしつけて一緒に寝るので、夜の9時に寝て、朝の6時に起きるまで9時間は寝ます」

 このトレーニング内容と生活スタイルで、国内のトップ選手と互角に渡り合う。それがとても痛快で、見ているものの心を震わす。それこそが彼が関西圏で絶対的な人気を誇る秘訣だ。
 


レースの最中は「野人」。終わればすぐに「父」に戻る
 

優勝へのモチベーションを支えるのは家族

 

大杉哲也、野生児にあらず!

 自分の走るスタイルやフォーム、戦略についてはほとんど語ることはない。彼のことをもともと身体能力に恵まれた野生児と思っている人も多いかもしれない。しかし大杉は自分のことを「コツコツやる雑草タイプ」だと言う。

「レースまでの調整とかは結構真面目に取り組んでいます。仕事とかでも「段取り八分」って言うじゃないですか。1カ月前からのトレーニングはどうか、3日前からの食事はどうか、コースの高低図、食料、装備など、仕事の昼休みの時間なんかに入念にチェックします。そして逆に前日には、ビール1本飲んで、「準備オッケー!」って感じでリラックスします。スタート地点に立ったら、もうほとんど順位は決まっているものと思って楽しんでいますね」

 スタート直後のロードから積極的に飛ばして一気にトップに立ちそのまま独走。それが大杉の定番スタイル。相手が誰であろうとお構いなし。駆け引き一切なしのストロングスタイルも大杉の人気の秘訣だが、そこには意外な裏事情があったようだ。

「今まではスタートから飛ばしまくる作戦ですね。2位以下の選手に“ついていけない”と思わせるというのも戦略です。心拍180くらいで突っ込んで“しんどっ!”って思いますけど、後ろが見えなくなるまで飛ばします。その後、見えないところで休んでいたりするんですよ(笑)」
 


マイコースである「大阪府民の森・ほしだ園地」にて。あえて急登のコースを選ぶ

 

2016年、目標はウルトラトレイル・デュ・モンブラン

「けど、自分も徐々に経験を積んできて、2016年からはスローでスタートして徐々にペースを上げていくようなレース展開をしたいと思っています。 
 STYでザ・ノース・フェイスのセバスチャン選手と一緒に走って、彼の戦略とかはすごく勉強になりました。駆け引きが上手いなと。私に苦しい顔で「先に行け」というジェスチャーをしておいて、その後私がとても走れないような坂で彼は走っていたと聞きました。やられたなと…

 ハセツネやSTYは戦略なしでは優勝は狙えないってわかったんです。30〜40kmなら走力だけで逃げ切れるんですが。これからレース展開が上手い選手になって大きいレースで勝ちたいですね。野人じゃなくて、半野人です。(笑)

 バーチカルやスカイレースも出てみたんですが、ああいうスタイルより、ミドルくらいのテクニカルなレースで、景色を楽しみつつ戦術で勝負するようなレースに興味があります。来年はSTYやハセツネも出たいですが、いちばんはCCC(注:ウルトラトレイル・デュ・モンブランの100kmレース)。世界で勝負してみたいっすね!!  目標は5位以内」

 

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この後ろ姿に多くの熱い男たちが挑み、敗れ去った……


「行く高校がない」と言われた大杉だが、今では周りのどんな高学歴な人からも心から尊敬されている。そこがまた痛快だ。誰もトレイルランニングという自由な趣味の世界で、大杉ほどの情熱を持ち続けることができないからだ。勉強はできなかったが、好きなことをとことん突き詰める探究心と、不断の努力を積み重ねる忍耐は誰にも負けない。 

 すっかりチームサロモンのユニフォームが似合うようになった大杉選手。しかしチームサロモンに入る前の安そうなシャツに手書きで子どもたちの名前を書いたウェアも懐かしい。
 

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サインペンで子ども達の名前を書いたユニフォーム


「レース中苦しくなったら、5人の子どもたちの名前を一人ずつ心の中で唱えるっていうのはやってますね。それがひとつのリズムを作っているんです」

 古き良き日本の男を感じさせる背中は、やはり古き良き日本の生活スタイルから生み出されていたようだ。海外に行くチャンスはそう多くはないだろう。しかし飛躍の年となる2016年、世界の大舞台でガッツポーズを見せてほしい。そして「日本の父は強い」とその走りで証明してくれ。その瞬間を、関西の……いや、全国のトレイルランナーはみんな待っている。
 

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インタビューはほしだ園地近くのトレイルランショップ「O.B.S.きさいち」にて

 

 

大杉哲也(おおすぎ・てつや)

1982年生まれ、大阪府在住。陸上自衛隊に勤務し、2009年からトレイルランを始める。現在は5人の男の子の父として育児に奮闘しつつ、レースに参戦する。休日は早朝から大阪・生駒山を駆けめぐる。モットーは『挑戦、挑め果敢に!』。MtSNランキング は現在男子総合4位。
大杉哲也選手のMtSNマイページリンクは→
こちら

 

 

 

 

 

 

 

【2015年のおもな戦績】
第41回大阪府チャレンジ登山大会36km) 優勝(大会5連覇中)
ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)(STY) 3位
若狭路トレイルラン2015  ロング(43km) 優勝
第2回 FAIRY TRAIL びわ湖高島トレイルランニングinくつき 40km 優勝

連載【 Top Runner's Voice バックナンバー】

第1回 小川壮太
第2回 宮﨑喜美乃
第3回 丹羽 薫 
第4回 高村貴子

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