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連載「TJAR2014 30人の勇者たち」Vol.13 2014年の勇者たち(8)西田由香里

2015.12.16

<不調が続いたTJAR本戦>

 台風の接近に伴い、初日荒れ模様となったTJAR2014。コース変更により、ロード39kmからのスタートとなった。西田は立山駅までちょうど5時間、山本寛人とほぼ同時に10番手で通過した。
 一ノ越からの稜線に出ると、風雨は激しくなっていた。途中、突風で飛ばされそうになりながら五色ヶ原に到着。このまま単独で進むのは危険と感じ、後続を待った。追いついてきた大原 倫とともに、スゴ乗越小屋まで進んだ。大原は前進を決めたが、西田は「吹きっさらしの薬師岳は危ない」と判断し、スゴ乗越でビバークを決めた。
 台風の影響により、大会本部による特別措置もあった。そのなかで、西田はよい位置につけて快調にレースを進めているように思われた。しかし、序盤から体の調子は思わしくなかったという。

「全然、調子が出なくて。ずっときつかった」
 そう西田は振り返る。不調の要因の一つとなったのが、TJAR完走の重要な要素ともなる「睡眠」だった。
「まとまった睡眠がとれなくて、ずっと眠たかった。普段でも、レースの後はしっかり寝られないんです。5時間とか続けて寝られなくて、2、3時間で目が覚めてしまう。TJARでも、1時間寝て目が覚めて、もう2時間寝て……という感じでした」

 疲労が溜まっていくなかでは、普段当たり前にやっていることも、容易にはできなくなっていった。女性ならではの問題やストレスもあった。
「歩いているときは、もう適当でしたね。日焼け止めも持っていたけど1回しか塗らなかったり、化粧品も持っていたけど眉毛を描かなかったり(笑)。トイレや歯磨きも面倒でした。沢渡(さわんど)でお風呂に1回入って、すっきりして気持ちがよかった。またすぐにずぶ濡れになりましたけど……。だんだん細かいことは気にしていられなくなりますけど、ずっと嫌でした」


大会2日目、北アルプス・西鎌尾根を進む西田 (写真=宮上晃一)

 

「また出るのは大変だろうな、と途中で思いました。途中でやめたら、またやるのは大変だから、完走はしたいなと」
 中央アルプスに入ってからも、体調はすぐれないままだった。
「唯一、天気がよかった中央アルプスでも、元気が出なかったんです。ポカポカした稜線で2時間くらい寝られたんだけど、体調は回復しなくて…。池山小屋でも寝てしまった。いちばん天気がよくて元気にならないといけないところで元気が出なかったのが、残念だったかな」
 中央アルプスでは、女性として唯一のTJAR優勝者である間瀬ちがやが応援で山に入っていた。憧れの間瀬から声をかけられ、泣いてしまったという。道中、前後することが多かった山本(野呂川越でリタイア)の存在も、前進への大きな力になった。



「元気が出ない」状態が続いていたが、カメラマンを見つけると笑顔を向けた(写真=宮上晃一)

 

 レース中、 最も弱気になったのは、南アルプスの三伏峠だった。メディカルチェックを受けた後、小屋に入るも、食欲がない。先に進む気力が出ない……。
「すごく寒くて、もう動きたくないなと。もう本当にダメかも、と思いましたね。このとき、知っている人が何人もいたんですけど、志村君もスタッフでいて、この人は完走してるんだ、すごいなと……。選手では佐幸君、雨宮君もいて、あとから田中さんが来たのかな。みんな淡々と行く用意をしていた。『みんな行くんだ。じゃあ、私も行こう』と(笑)」
 選手たちはみな、疲労困憊のはずなのに、元気そうに見えた。
「あれっ、私、ここで泣きごとなんて言っていたらダメだなと」
 寒をしのぐため、シュラフカバーを体に巻き、カッパを着たことで、寒さがやわらぎ、進む気力も湧いた。

 ビバークの際など、小さい工夫の積み重ねも、完走を引き寄せた。
「体を拭くシートで、寝る前には全身を拭いていました。寒かったので、寒さ対策にもなりました。汗をかいた後の皮脂、まとわり感が冷えの原因になるんです。それを拭き取れば冷えずに寝ることができました。あとは寝るときには上だけ寝間着(絶対濡らさない下着)に着替えていました」
 また、足裏のケアも欠かさなかった。特に雨が続くなかでは、足裏のケアが終盤の選手自身のコンディションを左右した印象を受ける。
「いろんな人から『足裏はケアしたほうがいい』と言われたので、毎回、休憩するたびに、靴下を脱いで足裏を見ていました。クリームを塗ったり……。痛くはなったけど、皮がベロベロになることはなかったので大丈夫だったのかな」

 肉体的に最もつらかったのは、最後のロードだ。南アルプスを下山する途中、左足の大腿部の肉離れを起こしていた。痛みを抑えるため、鎮痛剤を飲み、思うように動かない体を引きずるようにして前進を続けた。
「自分のなかで、ロードは走らないといけないというのが頭にあるんですけど、脚が痛くて下りさえも走れない。登りは歩いても、下りが走れないなんて……と、悲しくなりましたね。『走れないなんてダメじゃん』と、泣きながら歩いたりしていました」
 しかし一方で「ここまで来たら、行くしかないでしょ」と気持ちを奮い立たせた。応援に駆け付けた夫と娘の存在も支えになった。
 そして、8月17日、22時をまわり、ついに大浜海岸に到着した。

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