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連載「TJAR2014 30人の勇者たち」Vol.19 2014年の勇者たち (14)山本寛人

2016.02.20

<山をあらゆる角度から楽しみたい>

 大会本部にリタイアを告げ、その日は両俣小屋に泊まった。山本にとって初めての山小屋泊だった。翌朝、山小屋のラジオから聞こえてきた日付に、山本は「えっ……」と耳を疑った。
 8月16日だと思っていたその日は、まだ15日だった。前日、残り2日間しかないと思っていたが、実際は3日間だったのだ。山本は勘違いをしていたことに、愕然とした。
 「実は、自分が完走ギリギリペースなので、私より後ろの人たちは完走できないんじゃないの? とずっと思っていました。でも、駒ヶ根への下山中に西田さんと話をしたのを最後に、他の選手には会うことはなく、話をしていなかった。市野瀬で、実行委員の武田さんと『自分でギリギリ完走ペースなのに、後ろの人は大丈夫ですかね?』なんて会話でもしていたら気づいたかもしれない。けど、他の選手がもうアウトなんて言ってしまってはいけないと思って口にはしませんでした」
 山本にとってレースでのリタイアは初めての経験だった。正確には、一度だけリタイアを宣言したことがある。雁坂峠越え秩父往還(153km)のレースで、途中、足の痛みでリタイアを決意。だが、収容車を待つ間にレース中の他の選手が走って通り過ぎていく姿を見て悔しくなりリタイアを撤回、結局完走をしたのだという。
 「それ以来、絶対にリタイアはしない、と。あと○日、あと○時間、我慢すればいつかはゴールできる……と。足が痛くなったときは歩いてでも、とゴールをしてきました」
 「たられば」だが、もし、残りが2日間ではなく、3日間とわかっていたら――。
 「行っていたと思います」と山本。
 振り返って「おバカなだけなんです(笑)」と明るく話すが、そのときはかなり落ち込んだという。
 「けっこうショックで……、しばらくは尾を引いていましたね。でも結果論なので。あと1日余裕があったとしても、低体温症にならずに進めたかはわからないなと……」
 山本は、自分に言い聞かせるように言った。

 


北アルプス・槍ヶ岳山荘で休憩をとる山本(写真=宮上晃一)

 

 16年大会へのチャレンジは、現時点ではまだ未定だという。
 「まず仕事が休めるかわからないのと、出たい人はいっぱいいるので……。前回も直前になって『よし申し込もう!』となったので、今回も近くなったら気が変わるかも。準備だけはしようかなと」
 日程を勘違いし、人生初のリタイアとなった苦い記憶を払拭したい思いもある。
 「次回、もし出られるとしたら、前回の経験があるので、前回よりは進めるんじゃないかと思います。3000m級の山が続く南アルプスは少し心配ですけど、ロードにさえ出てしまえば、なんとかなるかなと」

 走ることも、山も、始めた頃とは向き合い方が変化しているという。
 「走り始めた頃は、大会でどこまでタイムを縮められるか挑戦することが楽しかった。だけど今は走るのはあくまで移動手段の一つ。山も、スピードハイク+泊まりで自然を満喫するという楽しみ方。衣・食・住をすべて自分で持ちながら、山を楽しむスタイルにハマっています」
 山での縦走の様子や料理の写真・動画を撮り、編集することも趣味だ。山本の動画がSNS上に公開されることを楽しみにしている仲間も多い。
 装備への考え方も独特だ。荷物の軽量化にはこだわらない。普段の山行を含め、「山でもおいしいものが食べたい」と、米もアルファ米ではなく、普通の乾燥米を持参し、ガスで炊く。
 「装備についても、正直、改良とかしたことがないです。軽いに越したことはないと思うんですけど、荷物が1kg重くなるなら、1kg背負う体力をつければいいという考え方なんです。もともと体が軽いせいもあって、重い荷物を背負って走るのが得意じゃなかった。逆の発想で、重い荷物を背負って走れるようにすればいいや、と。なので、装備はあまり軽さにこだわらない。どちらかというと、足して足して、ですね。皆さんより重いほうだと思います」
 TJARに関しては、「昔のほうが想いは強かったかもしれない」と山本は言う。
 「以前は『いつか挑戦したい目標の一つ』という捉え方だったんですけど、今は、特にTJARを意識して、というよりは、山をもっともっと楽しみたい。いろんな楽しみ方の一つがTJAR、という感じです」

 ただ、その一方で、TJAR完走者の記録を目にするたび、リタイアの悔しさがよみがえり、「やっぱりリベンジするまで、これは引きずるのかもしれない……」と感じている。

 山をあらゆる角度から楽しみ、満喫したい……。山本にとって、TJARはその延長線上にある。そして、リベンジの舞台でもある。


■山本寛人(やまもと・ひろと) 写真=藤巻翔
1975年神奈川県川崎市出身、横浜市在住。中学時代は陸上部、高校時代は趣味でMTB。北海道での大学時代はバイクで道内をツーリング。06年からトレイルラン、ランニングを始める。走り始めて1年あまりで市民ランナーの“グランドスラム”(フルマラソンサブスリー、ウルトラマラソン10時間切り、富士登山競走完走)を達成。09年からはアルプスにも通う。トレイルランのほか、登山(冬山含む)などいろいろなスタイルで山を楽しんでいる。職業は福祉関係。
<主な戦績>
分水嶺トレイル 13年(鴨沢~獅子岩):28時間48分(チーム優勝)、同14年(青梅~獅子岩):40時間50分(ソロ3位)、同15年(青梅~獅子岩):38時間10分(チーム優勝)
日本山岳耐久レース:10時間7分(15年PB)、UTMF:26時間54分(12年)、小江戸大江戸200k:23時間31分(13年優勝)
サロマ湖100kmウルトラマラソン:8時間37分(10年PB)、勝田全国マラソン:2時間49分(11年PB)、OMM JAPAN:ストレート4位(14年)

 

次ページでは選手へのQ&A、装備一覧をご覧いただく。

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