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連載「TJAR2014 30人の勇者たち」Vol.25 2014年の勇者たち (20)朽見太朗

2016.06.08

<「5日切りは不可能ではない」>

 ゴールしてすぐに「また絶対に出たい」と思った。その言葉どおり、朽見は16年大会に向けてすぐに始動した。TJAR14年大会後から、冬山にも行くようになった。
 「よく言われている、低山から始めて高い山、夏山、冬山へと一連の流れがある。自分も自然にそうなった感じです。自分は学生時代の登山経験はないため、登山ガイドさんの雪山講習会に参加し、テント泊を含めた雪山のイロハを学ぶことで、自分に欠けていた登山の基礎知識を補うことができたと思っています。冬山は夏山以上に装備の性能がシビアに出るので、保温性、透湿性、防水性などのテストにももってこいでした。あとは冬の時期って長いじゃないですか。自分は高所順応が大切だと思っていて、夏に順応した体を、冬に戻しちゃったらもったいないなと。夏でも冬でもできるだけ標高2000~3000mまで上がりたい。その目的が一番大きいですね」


 
雪山2年目の今年3月、常念山脈縦走時の1枚。大天井岳から槍ヶ岳を望む(写真提供=朽見)

 

 14年大会終了後、食生活でも大きく変えたことがある。それは低炭水化物食と、グルテンフリー(小麦などに含まれるたんぱく質「グルテン」を使わない食事療法のこと)だ。きっかけは、裸足ランニングを取り上げた『BORN TO RUN』の著者(クリストファー・マクドゥーガル)の最新作『NATURAL BORN HEROES』と、プロテニスプレイヤー・ジョコビッチ選手の著書『ジョコビッチの生まれ変わる食事』を読んだことだった。
 「もともと、7、8時間の山でのトレーニング中にパンや高炭水化物を摂ると、頭が重くなったりパフォーマンスが乱高下することを実感していました。GI値(※)が低く小麦の含まれない行動食に変えたところ、パフォーマンスを落とすことなく長時間動き続けられるようになりました」
※グリセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、食後の血糖値の上昇度合を示す指標のこと。

 低炭水化物と、グルテンフリーを合わせているため、一般的な主食の、白いご飯、パン、パスタ、うどんも、普段の生活の中ではほとんど口にしないという。食べるものは「ナッツ、魚、乳製品、野菜。肉は少し食べます」。
 山に行くときはこの限りではないが、摂取カロリーは総じて低い。
 「山だと補給できるものも限界があるし、小屋で買うものは小麦が含まれているものが多く、炭水化物も多くなってしまうけど、それ以外はナッツ類が中心です。例えば12~13時間動くとして、摂取カロリーは1000kcalくらい。夜のテン場でのご飯と翌朝の軽食を入れて2500kcalもいかないですね」

 食事を変え、体の変化も感じている。
 「体脂肪が燃えることによってエネルギーの効率がよくなったという実感があります。少ないカロリーでも長時間動けるようになった。夏場は体重が落ちるので、それは気をつけましたね。逆に今年の雪山2シーズン目は、重いザックを担ぐのに体重がないときついので増やしました。体脂肪でいうと、昨年の無雪期の最後は5%くらい。雪山シーズンは、食事量を増やして10%くらいまで上げました」

 14年大会前同様、仕事の時間以外はすべて山にかけているといっても過言でない。食生活も含め、ストイックな生活を送っているように見える。だが本人にとっては、やりたいことを優先しているにすぎない。言葉も歯切れがよい。
 「食生活やトレーニングでストレスを感じることはないです。山に行くのが楽しいし、山行をより充実させるためのトレーニングや生活習慣だと思っています。体調管理については、ケガだけはしないように、トレーニング量やメニューには気を遣っています。特に夏場は長時間行動が続くので、翌日や翌々日はリカバリーに努めています。モチベーションは、8月の本戦があるのでまったく落ちません」(朽見)



中央アルプスを進む朽見。本戦中、貴重な晴天だった (写真=杉本俊也)

 

 朽見は「TJARは人生をかける価値がある」と語る。
 「1週間かけて日本アルプスを楽しみ尽くせる。車も何も使わずに、自分の足で北から南まで行ける。1人でやれと言われてもできないですね。TJARは、トップ選手やサポートアスリートではない一般人が挑戦できる、最強の山岳競技だと思っています。100マイルや海外レースもおもしろいですが、それは他の選手との競走という要素があるからこそのおもしろさだと思う。TJARはレースではあるけれども、他の選手と一緒に進んでいる感じ。自分との対話、限界への挑戦という意味が強いと思っています」

 多忙な日常の中でも常にアンテナを張り、そのアンテナに引っかかれば、本を読み、講習を受け、仲間との情報交換を行なう。その行動力、フットワークの軽さ、探求心には頭が下がる。人生において何を優先させるか――朽見の中でははっきりしている。そのために費やす時間、努力は惜しまない。

​ 16年大会の目標を訊くと、「5日切りです」という答えが返ってきた。TJARの過去の優勝最速記録は、10年大会・望月将悟の5日間5時間22分。「5日切り」となると、それを上回る。あるいは優勝も視野に入れているのだろうか。
 「数字は後からついてくるものなので、5日にこだわりはまったくありません。優勝なんて考えてもいません。天候や自分のコンディションを見ながら、ベストのレースがしたい、それだけなんです。ただ、2年前は絶対に完走したいという思いがあり、間違いのないよう十分な睡眠をとって進んだので、次回はもう少し自分の限界に挑戦したい。天候やコンディション次第ですが、限界ギリギリのレースプランを考え、自分のようなサポートアスリートではない一般選手でも、5日切りは不可能でないと考えています」
 14年大会前から単独でのファストハイクを続けてきたことで、自身のコースタイム短縮率は向上している。さらにこの2年は、14年大会前の2年間を上回る準備をしてきた。
 朽見の次のTJAR挑戦は、注目だ。

 

■朽見太朗(くちみ・たろう) 写真=小関信平
1981年、東京都出身、在住。中・高・大とバドミントン部に所属し、社会人になってからもクラブチームで試合に出ていた。バドミントンの練習の一環でランニングを行ない、05年、23歳のときに初フルマラソン完走。07年、25歳のときにトレイルラン、登山を始める。14年にはTJAR完走後、アンドラ・ウルトラ・トレイル(100マイル)にも出場、完走。職業はスポーツ関係団体職員。
<主な戦績>
2015年 Andorra Ultra Trail 48時間45分41秒完走
2014年 Grand Raid Reunion 50時間23分44秒完走
フルマラソンベスト 2015年 古河はなももマラソン 3時間5分29秒
 

次ぺージでは選手へのQ&A、装備一覧をご覧いただく。

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