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「TJAR2016 - 鉄人たちの熱い夏」Ver.3 望月将悟、新記録達成と4連覇の軌跡【前編】

2017.01.13

松田珠子=取材・文

 日本海をスタートし、日本アルプスの山々を縦断、太平洋に至るまでの総距離415km、累積標高差2万7000mを、自身の足のみで8日間以内に踏破する「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」。

 2016年大会で、望月将悟が4連覇と5日切りの金字塔を打ち立てた。この“究極の山岳レース”で無類の強さを誇る絶対王者のこれまでの道のりをあらためて振り返ります。
※『山と溪谷』2016年11月号掲載記事を一部加筆修正しています。



「トランスジャパンアルプスレース」の絶対王者
「望月将悟、新記録達成と4連覇の軌跡」(前編)


 2016年8月6日~14日に開催された「トランスジャパンアルプスレース」(TJAR)で、4連覇を果たした望月将悟。総距離約415km、累積標高差2万7000mの行程を、4日23時間52分で駆け抜けた。
 望月は、静岡市消防局に勤務し、山岳救助隊員として県内南アルプス山域で活動している。TJARのコース上、南アルプス南端の山間地、井川地区(現・静岡市葵区)で生まれ育った。幼少の頃から里山を駆けまわり、小学生の頃から家業(農家)の手伝いに駆り出された。井川での生活が「自分の土台になっている」と望月は言う。
 20歳の頃、消防局の上司に連れられて2泊3日で南アルプス(北岳~茶臼岳)を縦走したのが、望月にとって初の本格的な山行だった。その後、脚力を買われ国体の山岳競技(縦走種目)に出場、トレイルレースにも参戦するようになった。
 TJARを知ったのは、08年大会。消防士になり、静岡市街地に居を構える望月が、お盆休みに井川に帰省する際、偶然、TJARのレース中だった紺野裕一を見かけた。
 「真っ黒に日焼けし、ストックをつきながら一歩一歩進んでいた。ボロボロの姿だったけど、ギラッとした目が印象的だった」
 そのときまで、望月はTJARのことを知らなかった。日本アルプスを縦断するという壮大さ、地元・井川地区を通るということ、そして紺野の目の光の強さにも引き付けられた。「自分もこのレースに出たい」と強く思った。

 

 32歳で挑んだ初出場の10年大会は、スタート直後から、「トレイルレースの感覚で」積極的に飛ばしていった。ハイスピードで入ったことが響き、北アルプス・薬師岳に到達する頃には「潰れた」。ふと後ろを見ると、紺野と駒井研二が追いついてくるのが見えた。
 「TJARに出た選手から『幻覚が見える』という話を聞いたことがあった。2人の姿が見えたときは幻覚かと思った」
 紺野、駒井には、当然そのまま先行されるものだと思っていた。しかし、追いついた2人から予想外の言葉が掛けられた。
 「望月君、大丈夫? 飛ばしたねぇ」「まだ先は長いから大丈夫だよ」
 望月は、拍子抜けした。
 「あれっ、これ、レースだよね、と。追いつかれたときはショックだった。『ハイお先に』と置いていかれるものだと思っていたのに、なんで優しく声をかけてくれるんだろうと」
 そこからは3人で「和気あいあいと」進んだ。「南アルプスまで前後しながら。でもいつでも顔を合わせると最初に『望月くん、大丈夫?』と気にかけてくれた。それまで自分が出ていた山岳競技やトレランレースと全然違った。TJARの選手ってすごいなと」。
 南アルプス以降、2人に先行した。5日5時間22分。大会最速記録での優勝だった。

 10年大会の経験は、その後の望月のトレイルレースのスタイルにも影響した。
「それまではレース中に周りを気に掛けることはなかった。自分が気に掛けてもらってすごく嬉しかったから、自分もそうしたいと。余裕のある人間が進んで声をかける、周りを気に掛ける。それが強さでもあると教えてもらった」

 


2012年、一ノ越にトップで姿を見せた望月(写真=松田珠子)


 2度目の出場、12年はNHKの取材が入った。スタート後、馬場島までのロードでトップに立つと、その後、ゴールまで独走。カメラに追われるストレスやプレッシャーは予想以上に大きかった。連覇や記録更新という目標もある。レースを楽しむ余裕がなく苦しい局面もあったが、5日6時間24分で2連覇を果たした。
 

 3連覇がかかった14年大会は、初日の台風直撃に始まり、悪天候が続く厳しいコンディションとなった。山の経験豊かな望月にとっても「今までに経験したことがない」暴風雨に苦戦した。薬師岳山荘への下りの風雨の激しさは想像を超えていた。山小屋での一時停滞もあり、記録こそ過去2大会の自身のタイムに及ばなかったが、2位以下に16時間もの差をつける5日12時間57分で3連覇を達成した。


 16年大会への出場には迷いもあった。周囲の4連覇への期待は感じていたが、心身に過度な負担がかかるTJARに出るのは、準備段階を含め覚悟が必要だ。過去の大会後には、睡眠障害やむくみに数カ月悩まされたこともある。
 「体内リズムが崩れているのか、寝てもすぐに起きてしまったり、すごく疲れやすかったり……。家族にも心配をかけた」
 また、4度目ともなると新鮮味も薄れてくる。一方で、TJARは望月にとって特別な舞台であることは間違いない。「応援してくれる人たちの声に応えたい」という想いもあった。悩んだ末、望月は4度目の挑戦を決めた。

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